幸福論


□生徒会交流会
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そして日曜日。

現実逃避するように家に閉じこもっていれば、跡部の迎えが来て問答無用で連行された。

到着した別荘には、既に他校の会長と思われる人物が今か今かと景吾の到着を待っている。

氷帝は力のある私立高校だ。

通う人の殆どが裕福な家庭であり、一般の高校からしたら憧れの存在なのかもしれない。

特にその頂点に君臨する跡部景吾ともなれば、あの跡部財閥の御曹司と言う事もあり、その思いは一入だ。

と、客観的に見てみたが、私にとってはただのシスコン兄貴である事に違いない。

今回の件を、面倒臭い事を企画しやがって…、と思っているのだ。

多少の毒は許して欲しい。

今日何度目かの溜息を吐くと、自分に向けられている視線に気付く。

「…こんにちは」

「ああ」

「私の顔に何か付いてますか?」

「いや、すまない。自分の知っている人物に似ていただけだ」

やたら威厳のある、先生のような風貌の人だった。

彼が制服を着て居なかったら、絶対に何処かの学校の先生と間違えて居ただろう。

眼鏡版、真田君と言ったところだろうか。

いや、真田君よりは少し雰囲気が柔らかい気がする。

たるんどる、とか、けしからんなんて言葉遣いをする高校生は真田君だけでいい。

そんな失礼な事を考えて、話掛けてきた人を盗み見る。

…よくよく見れば、私もこの目の前に居る人物を見た事がある気がする。

人の名前と顔を覚えるのは得意な方だ。

一度話せば大体は覚えるので、この人と会話をした事はないのだろう。

それでも、何か引っかかる。

「私は立海の生徒会長、綾里と申します。貴方は?」

少しでも手がかりを探そうと話しかければ、落ち着いた声が返ってくる。

「青学の手塚だ」

はて。

聞いたところでさっぱり分からない。

やはり他人の空似だろうか。

とりあえず宜しく、と頭を下げる。

ご丁寧にも此方こそ頼む、と返って来た所で、周りが騒がしくなる。

お山の大将のご到着だ。

高級感のある氷帝の制服に身を包んだ景吾は、革靴を鳴らしながら此方に歩いてくる。

「よォ、手塚」

「相変わらずだな」

話しぶりから、以前からの知り合いというのが伺える。

そこでピンと来た。

手塚君と話した事は無いけれど、こうして景吾と話しているのを見た事があるのだ。

だから手塚君も、私を見た事があるのだろう。

だってそれは、私がリリィとして活躍していた頃の試合会場で、だった気がするから。

手塚君も、まさか行方不明になっているリリィがこんな所で、ましてや立海の生徒会長をしているとは思わないだろう。

第一私は綾里と名乗ったのだ、気付かないで居て欲しい。

「その制服は立海か」

「綾里と申します。以後お見知りおきを」

「フン、期待している」

景吾が初対面を装って話しかけてくるので、それに乗じて自己紹介をすれば、景吾と目が合う。

そう言えば、立海の制服姿を見せるのはこれが初めてかもしれない。

スカートが短いと怒られるかと思いきや、意外にもあっさりと景吾は去って行く。

「中に移動するようだ。油断せずに行こう」

…何を、と聞きたかったが、なんとか押し込めて建物の中に入っていく手塚君の後を追った。



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