幸福論
□合宿
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「期間は1週間。その間のスケジュールはこの通りだ」
ここは立海テニス部のレギュラー用の部室。
テーブルを囲んでいるのはレギュラーと茜と悠、そして私。
何について話しているかと言えば、2日後に控えた合宿の事だ。
バレンタインの時に約束させられた私は、問答無用で参加が決定してしまった。
そしてもう1人、問答無用で連行される人物が居る。
「マネは茜と成澤に任せる」
「うん!任せて〜!」
「…………」
「成澤?返事は」
「…へいへーい。わかってますよ、幸村様」
マネージャーに任命されてしまった悠だ。
茜はレギュラーの力になりたい、と二つ返事で引き受けたのだが、悠は違う。
幸村君に脅されての強制参加だ。
「そんなに不本意かな?」
「これがそう見えないなら、あんたの目は腐ってんのよ」
そんな訳で、悠の機嫌はすこぶる悪い。
「空いた時間は自分のトレーニングに使っていいんだからさ、そこまで怒らなくても…」
見かねた桑原君が声を掛けるが、悠は桑原君を睨んだだけだった。
ヒィっと声を上げて桑原君が柳生君の後ろに隠れた。
「ハイハーイ!鈴蘭サンはマネじゃないんスか?」
「赤也、良い質問だ。綾里にはコーチと監督を兼任してもらう」
「綾里さんは指導者としても申し分ないからね。本当は選手として連れて行きたい所だけど」
「という訳で宜しくお願いします。名目上はそうなってるけど、マネとしても皆をサポートするつもりだから」
「ああ、宜しく頼む」
「会長が居たら百人力だぜぃっ!」
この合宿にはマネは各校2人までという規制がある。
それならば悠を連れて行くのでなく、私と茜で良かったのでは、と思ったが、悠が誘われた事を此処へ来て知ったのだ。
今更どうしようもない。
「続けるが構わないか?」
「ああ、頼む」
「2日後の朝8時に迎えのバスが来る。遅刻した者は容赦なく置いていく」
柳君が切原君を見ながら言えば、気を付けマスと小さな声が聞えた。
そしてその隣では茜にモーニングコールを頼む丸井君の姿がある。
同じく朝の弱い仁王を見やれば、頼む、と声を発さずに口だけ動かした。
それにコクリと頷けば、仁王はふわりと微笑む。
一瞬で高鳴り始めた胸の鼓動が、隣に居る茜と悠に聞えてやしないかと不安になったが、2人はそ知らぬ顔で平然としていたので一息吐いた。
「詳しくは資料に目を通してくれ。俺からは以上だ」
「蓮二、ありがとう。何か質問は?」
「ハイハーイ!鈴蘭サンも立海のバスで行くんスよね?」
「うん」
「じゃあ、俺の隣座って下さいッ!」
切原君の隣に座ったら、ずっと喋りっぱなしなんだろうな。
切原君自体は嫌いじゃないし、いい子だとは思う。
…だけど合う、合わないがあるわけで。
そんな私の隣に座っても、切原君は何も面白くないだろう。
かといって、仁王の隣には座りたくない。
理由は簡単、心臓が持たない。
たかがバスの座席なのに、そこまで考えてしまう自分に呆れる。
とりあえず、合宿中は恋心は忘れよう。
テニスに専念するんだから。
「じゃあ、解散」
よし、合宿頑張ろう!