幸福論


□合宿
2ページ/48ページ



「期間は1週間。その間のスケジュールはこの通りだ」

ここは立海テニス部のレギュラー用の部室。

テーブルを囲んでいるのはレギュラーと茜と悠、そして私。

何について話しているかと言えば、2日後に控えた合宿の事だ。

バレンタインの時に約束させられた私は、問答無用で参加が決定してしまった。

そしてもう1人、問答無用で連行される人物が居る。

「マネは茜と成澤に任せる」

「うん!任せて〜!」

「…………」

「成澤?返事は」

「…へいへーい。わかってますよ、幸村様」

マネージャーに任命されてしまった悠だ。

茜はレギュラーの力になりたい、と二つ返事で引き受けたのだが、悠は違う。

幸村君に脅されての強制参加だ。

「そんなに不本意かな?」

「これがそう見えないなら、あんたの目は腐ってんのよ」

そんな訳で、悠の機嫌はすこぶる悪い。

「空いた時間は自分のトレーニングに使っていいんだからさ、そこまで怒らなくても…」

見かねた桑原君が声を掛けるが、悠は桑原君を睨んだだけだった。

ヒィっと声を上げて桑原君が柳生君の後ろに隠れた。

「ハイハーイ!鈴蘭サンはマネじゃないんスか?」

「赤也、良い質問だ。綾里にはコーチと監督を兼任してもらう」

「綾里さんは指導者としても申し分ないからね。本当は選手として連れて行きたい所だけど」

「という訳で宜しくお願いします。名目上はそうなってるけど、マネとしても皆をサポートするつもりだから」

「ああ、宜しく頼む」

「会長が居たら百人力だぜぃっ!」

この合宿にはマネは各校2人までという規制がある。

それならば悠を連れて行くのでなく、私と茜で良かったのでは、と思ったが、悠が誘われた事を此処へ来て知ったのだ。

今更どうしようもない。

「続けるが構わないか?」

「ああ、頼む」

「2日後の朝8時に迎えのバスが来る。遅刻した者は容赦なく置いていく」

柳君が切原君を見ながら言えば、気を付けマスと小さな声が聞えた。

そしてその隣では茜にモーニングコールを頼む丸井君の姿がある。

同じく朝の弱い仁王を見やれば、頼む、と声を発さずに口だけ動かした。

それにコクリと頷けば、仁王はふわりと微笑む。

一瞬で高鳴り始めた胸の鼓動が、隣に居る茜と悠に聞えてやしないかと不安になったが、2人はそ知らぬ顔で平然としていたので一息吐いた。

「詳しくは資料に目を通してくれ。俺からは以上だ」

「蓮二、ありがとう。何か質問は?」

「ハイハーイ!鈴蘭サンも立海のバスで行くんスよね?」

「うん」

「じゃあ、俺の隣座って下さいッ!」

切原君の隣に座ったら、ずっと喋りっぱなしなんだろうな。

切原君自体は嫌いじゃないし、いい子だとは思う。

…だけど合う、合わないがあるわけで。

そんな私の隣に座っても、切原君は何も面白くないだろう。

かといって、仁王の隣には座りたくない。

理由は簡単、心臓が持たない。

たかがバスの座席なのに、そこまで考えてしまう自分に呆れる。

とりあえず、合宿中は恋心は忘れよう。

テニスに専念するんだから。

「じゃあ、解散」

よし、合宿頑張ろう!


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ