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□1番星
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一番星


今日は黒子が学校に来なかった。彼は少々の熱ではムリしてでも学校に来ていたし、それについて正直良い思いをしていなかったのだけど、来ないとなるとやはりとても寂しく思う。
授業なんて身に入らずにもう脳内は黒子一色。
どうしようも無いほどの高熱が出たのか嘔吐下痢にでもなったのかはたまた違うことなのか。考え出したらとまらなくて、心配で心配でたまらなくて、ちょっと迷惑かと思いながらもいくつかのメールを送った。
本当は一通で終わらせるつもりだったのだが、数時間経っても返事が来ず、結局朝から放課後までに計4通も送ってしまった。
返事を待つ気持ちが逸って、気づいたら「空メでもいいから返信してくれ」とか打っている始末。
さすがに自分でもしつこいと思う。つーかオレはこんなメールが送られてきたらイラッとくる。
キツイんだよ察しろ。とか思う。あまりにも理不尽な己に頭を抱えた。
黒子のことになるとどうにも抑えがきかない。
「黒子のこと好きすぎるだろ、オレ…」

髪と同じように自分の頬を赤く染め火神は部活をするために体育館へと向かった。


体育館に着き、いつものように挨拶をして入る。
はじっこの方では、リコや日向をはじめとした2年生がかたまってなにやら真剣に話し合っていた。表情は決していいものではない。
遠慮しつつも、リコに近寄り声をかける。黒子が欠席していることを伝えなければならないと思ったからだ。
その旨を話すと、リコが言いにくそうに口を開いた。

「そのことなんだけど…黒子くん、桐皇にいるみたいなの。高校も転校するって言ってて…この前まで青峰くんを倒すって意気込んでたのに絶対おかしいでしょ? そう思うんだけど、本人に訊いても答えてくれなくて…」
前髪をくしゃりと握り締め、リコはため息をついた。
火神はなにも言うことが出来なかった。リコが嘘をついているのではないかとすら思った。そんなつまらない嘘をつくタイプではないとわかっていても、信じることが出来なかった。
リコの言葉がすべて真実なら、黒子は自分よりも青峰を選んだということになる。
それだけは認めたくなかったし、昨日だって青峰倒すといつもより長い自主練を2人でしたのに、黒子がそう簡単に裏切る奴だとは到底思えなかったからだ。
だとしたら、行き着く答えはひとつだった。黒子は青峰に脅されているのではないか。
不確かな憶測でしかないのに、火神は何故かそれを確信していた。
黒子のいままでの言動、行動、青峰の性格。それらすべてを考慮するとそれ以外にはありえない。
それを思った今、火神のとるべき行動はひとつだった。
「桐皇行ってきます」
「は!?ちょっと、火神くん!待ちなさい!!」

リコの制止も無視して、火神は誠凛を飛び出した。
自分への怒り。青峰への怒り。なにも話してくれなかった黒子への怒り。
いろいろな怒りが生まれ、火神は風を切りながら歯を強く食いしばる。
どんなことがあってもオレはオマエのそばに居るから。俺が守るよ、黒子。 そう強く思った。

荒い息もそのままに、桐皇学園高校の門をくぐる。
体育館は目立つ場所にあり、在校生に尋ねる必要はなかった。
体育館に駆け込むと、一番最初に青峰が目に入る。そして、その隣に影の姿。黒子がいた。その瞳はまったく生気がない。なにもかも諦めたような、哀しい目。
そんな黒子を見て、「ブチッ」と、火神は自分の中のなにかが切れたような、そんな気がした。
「青峰ェッッ!!!」

大声で名を呼びながら近寄る。ほかの部員がざわめきたった。
どうやら皆、火神が乗り込んだ理由はわかっているようで、目線は黒子に向いている。
火神が青峰の胸倉を掴むより先に、黒子の細い手首が火神の体を突き飛ばした。
体格差からか、火神はたたら踏むだけでなんの心配もなかったが――…大きく目を見開く火神。胸の内を、その表情が痛いくらいに表していた。黒子が肩で息をしている。うつむいていて顔は見えない。

「なにしに来たんですか。ボクはもうキミの影ではありません。青峰くんが、ボクの光です。
もう、キミなんて必要ない。さっさと誠凛に帰ってください」

そう早口に捲くし立てられて、どうしたらいいかなんてわからなくなる。黒子にそう言われてしまったら自分はもう、なにも出来やしないのだ。
悔しくて歯痒くて、拳を強く握りしめた。フ、と目の前の黒子に目線を戻すと。
ああ、と火神は思った。嬉しいような、安心したような、やっぱり悔しいような、悲しくて同時に怒りすら覚える。
色んな感情がない交ぜとなったまま、火神は黒子を抱きしめた。
腕の中の黒子はもちろん抵抗したが、許さないというように抱く力を強める。
黒子の両頬を優しく掴んで、自分と目が合うようにした。だったら。火神はひどく切ない声でそう言った。

「だったら、なんで泣くんだ!」

火神のその言葉に反応して、黒子の瞳からさらに涙が零れ落ちる。そのうち嗚咽すら生まれだして、ぽろぽろぽろぽろといくつも溢れる雫を拭ってやりながら、火神は黒子の頭をあやすように撫でる。

「なあ、頼むよ黒子。オレの為に自分を犠牲になんかするな。そんなもん全然嬉しくねーんだよ、たとえそれがどんなに正しいことだったとしても。
ずっとオレの影でいろ。ずっとオレだけの隣に、いろよ」

な? もう黒子は火神に黒子に否定の言葉なんて投げかけなかったけれど、火神くんを守りたいんです。と誠凛に戻ることをよしとはしない。

「オレは負けねー。オマエが青峰になにを言われたかなんて知らないけど、信じろよ。オレのこと。絶対大丈夫だから。
―――オレは、オマエの光だろ?」

なにがあっても。どんな形でも、そばに居るよ、ずっと。

黒子はわんわん泣きながら、必死に首を縦に降った。黒子から許しさえもらえれば、自分に怖いものなどなにもない。

「…つーわけだから、黒子は返してもらうからな、青峰」
青峰は舌打ちをして、黒子を射抜いた。その瞳は、思わず立ちすくみそうなほど恐ろしく、そして冷たい。
それでも、火神は負けなかった。黒子を支えてやりながら、青峰をキツく睨み返す。
青峰が冷たい笑みを浮かべて言った。

「オレの言ったこと、忘れてなんかねえよなあ、テツ。
いいのかよ?後悔しても、知らねーぞ」
「…後悔は、しません。
ボクが、火神くんを守ってみせます。キミの好きなようにはさせません。」

きっぱりと言い切ると青峰は降参だと言うように肩をすくめた。

「あーあ、じゃあどうぞご自由に〜」
「はい。そうします」

黒子は一礼をしてから、火神とともに桐皇学園を去った。
誠凛への帰り道、2人はどちらともなく手を繋いだ。周りからの視線などまったく気にならない。それを表すように、お互いが手に力を込めた。
火神が優しく微笑んで言う。

「もう、どこにも行くなよ」
「はい、約束します。ボクはずっと火神くんのものです。」

黒子も微笑みながら返した。
不意に歩みを止めた黒子に、火神は不思議そうな顔をした。

「黒子、どうし――」
「ありがとうございます、火神くん」

ボクはもう、キミの隣にはいれないのだと覚悟してました。ずっと側にいたかったけれど、想いを必死にこらえてました。
でも、今はボクはキミの隣に居れる。キミだけの影でいれる。
それはまぎれもなく、キミのおかげです。本当にありがとう、火神くん。

「大好き、です」
「へ…」

最後に小さく伝えられた愛の言葉に、情けなくも火神はかたまった。
甘い言葉など、無に等しく言ってはくれない黒子が。
とても頑張ってくれたのだろう。黒子の顔は耳まで赤く染まっていた。
羞恥に耐えられなくなったのか、繋いでいた手を離して黒子が逃げるように駆け出した。だが、火神が追いつけないはずがない。
小さな体を抱きすくめながら、耳元囁いた。

「オレも、大好き」

これ以上ないくらい黒子は真っ赤になる。
笑いながら、火神は黒子へ甘く優しいキスをした。


あの一番星をきみにあげる
(ずっとずっと一緒だよ)
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