唄のカケラ
□毒見係と王子様。
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「王子、それは食べちゃダメ。オイシクナイから」
無駄に広い食堂に低くなく高くもない独特な男の声が静かに反響した。
「じゃぁこのお菓子は?」
僕が指した先には銀食器に綺麗に盛られたお菓子達。
それを少しずつ男の綺麗な指がつまみあげ、次々と咀嚼していく。
「ウーン、そっちのマカロンはいいけど、手前のクッキーはダメ。それにこのチョコレート、気合い入れすぎてスパイス効き過ぎだョ」
チョコレートにスパイス。
その絶妙な例えに僕は軽く笑ってしまう。
「最近増えてるね、添加物たっぷりの料理」
「シェフ替えたほうがいいんジャナイ?すっかり買収されきってル」
「誰でも一緒じゃないかな。結局は餌につられて誰かの犬になっちゃうんだから」
「マァ、後でスコーンでもお届けするヨ。育ち盛りの王子サマが栄養不足で小さいまま、なんてことになったらボク悔やんでも悔やみきれナイヨ」
「どうせ僕はちっちゃいよ!身長のことはほっといて!」
僕はむくれながら許可がおりたマカロンをぱくりと口にいれて、そのクシャリとしたウェハースと中からはみ出るザラリとした甘いクリームを味わった。
少し離れた席に座っている男はさも美味しそうに彼曰く『オイシクナイ料理』を頬張っている。
「よく食べれるね、それ」
「食べ物を粗末にしたらバチがあたるデショ。添加物に慣れたら案外オイシイよ」
「だからってそれ…
毒、入ってるのに」
僕が食べたら確実に一口で天に召される毒入りの料理。
毒見係の彼にとったら最高の味付けなんだって。
毒見係と王子様。