唄のカケラ
□Gravedigger.
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細い三日月が夜闇に飲み込まれた深夜。
街外れの無名墓地に人影が二つ。
一方は大きな荷物を抱え静かに佇み、もう片方はスコップを手にせわしなく動いている。
ザッザッと断続的に聞こえていた音が止み、場に応しくない陽気な声がこだました。
「週に二、三と置かず墓を訪ねるんはあんたぐらいやぞ、気狂い主人の犬っころ」
声を発した主はブカブカのオーバーオールを泥だらけにしながら喉で笑った。
「…墓掘り、今夜はこれを」
黒い外套に身を包んだ執事が、パンパンに膨れた大きな麻袋を視線で指し示した。
「はー、こりゃ大層な量やねー!夜に穴掘るのも楽じゃないんよ?大地は凍ってガチガチやし、屍人が周りにわんさかおっていつ起きてきはるかと思うと気味悪いしな」
「礼は十分にはずんでいるはずですが」
「へーへーお蔭様で美味しいおまんまにありつけてまさぁ」
文句は言いつつもサクサクとスコップで穴を荷物に合わせてカスタマイズしていく作業はさすが手慣れたものだ。
「上流階級の御人の考えることはいつまでたってもわからひん。ほら、その荷物こっちに寄越し」
かなりの質量のある麻の袋がドサリと深い穴に落とされた。
そのはずみで袋の口が少し開き、赤い毛髪がちらりと見えた。
「あーあ、これ何人分なん?一応祈ったろ。迷える魂達に救済を、アーメン」
「…貴方がクリスチャンという事実のほうが不可解です」
「はっ、このウチがクリスチャンやて?こないだ葬式で神父が言ってはったのを真似しただけやっちゅーの。大体ウチがキリスト教を崇め奉るやなんて、飼い犬のあんたが大切な主人の手を噛むっちゅーくらい有り得んね」
墓掘りはそれっきりむっつりと黙り込んでざらざらと穴に土を放り込んでいく。
「これでよし、と」
パンパンッとスコップの腹で盛り土を丁寧にならす。
穴を掘る前と一寸も変わらない大地がそこに現れた。
「いつ拝見しても見事な仕事ですね」
「これが出来ひんかったら今頃坊ちゃんのお遊びがヤードにばれて、あんた達諸とも絞首台の階段上らされてあの世行きや。ま、ウチは所詮墓掘りらしく、目の前に死体持ってこられりゃ墓穴掘って埋めてるだけやけどな」
墓掘りは執事から金貨を受け取り、チャリチャリとその手の内で遊ばせた。
「なぁあんたさ、いつまで飼い犬に成り下がってんの?」