唄のカケラ

□機械仕掛けの恋の行方。
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アンドロイドは利便さを追究し人間が作り出した、人工の魂を持つカタマリ。
ただ人間に与えられたプログラムに沿って行動するだけの便利な道具。
そのはずだったのに、いつの間にかアンドロイド達は感情を持ち合わせるようになった。
きっかけは、些細なコンピューターウィルスだったと言われているが、本当のところはわからない。
原因はどうあれ、感情を持ったアンドロイドは、自分たちが人間に酷い扱いを受けていたことに気付いてしまった。
とうとう、自分達を作り出した人間に刃向き、全面戦争を起こした。
そして今や、人間は、絶滅危惧種。

「んむぅ…あぁ…!カナム、やめ…やぁああっ」

ここに一人。
研究材料にされているモルモットがいる。
研究のテーマは、生殖。
どんなにプログラミングを重ねようと、アンドロイド達の前にその壁は高くそびえ立つ。

「ぁぅ…んあぁ…で、る…っ!」

強制的に快感を与え、出た液をフラスコに採取する。
それを解析チームに手渡す。

『良く出来ましたね、零』

優しく頭を撫でるその手は、ひやりとした合金。

「ぃゃぁ…もぉ…」

ぐったりと身体を投げ出し、ぽろぽろと涙が止まらない。

『名前までつけて貰って待遇も特別なのに何が嫌なのです?』

有効なサンプルを採取するには、モルモットは心身共に健康でいなければならない。
いまや人間は純系統を維持されていて、野生ではもはや数える程にしか生息していない。
系統維持用の数ペアを残して、他の個体は実験と称して様々に手を加えられているのいが現状。
その中で、この少年…零は特別に選び出された。
人間が最も心地良いと感じる環境を用意し、名前もつけられた。
その実験内容は、時折人間の三大欲求の一つ、性欲を与えるだけ。
他は、何一つ不自由はさせていない。
なのに、この少年はこの生活が嫌だという。
何故、と問うが返事は返ってこない。

『次回は3日後の日没時ですからね』

ぎゅ…と零はさっきまで逆らえない的確な快感を与えてきたアンドロイドの腰に抱き着く。

「今日は朝まで一緒に寝てよ…」

『それはできませんよ。あなたはただの実験サンプルなのだと何度もお伝えしたでしょう?』

カナムと呼ばれたアンドロイドは、性に特化して造られたセクサロイド。
人間が食物連鎖の最高位にいたころの飽食の遺産。
もう必要がないため、セクサロイドはカナム以外残っていない。

『おやすみなさい、零』

セクサロイドのカナムに意味を与えてくれる少年。
…研究が終われば処分される運命。

「おやすみ…」

体液は搾り取るけど、とろけるくらい優しくしてくれるアンドロイド。
研究目的以外、二人が会うことはない。

もうすぐ夜が明ける。
消えかけた蒼い月が暗く嘲った。



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