唄のカケラ
□デッドスペース。
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―――大人しくしてなさいって言ったでしょ!!
―――あぁあぁあんな奴疫病神だ!
―――そっくりな双子でも片方は出来損ないだったんだね!!
何をしても裏目にでるなら、何もしないほうがいいと思ったんだ。
だから最後の足掻きってゆーの?
ネットで漁って見つけた黒魔術の魔法陣を自分の部屋の床に描いた。
すべてサイトに忠実に。
フローリングの床に白いチョークでゆっくりと慎重に描いていく。
別に、何かを期待してた訳じゃなくて、最後の最後で何かをしてみたかっただけだったんだ。
どうせネットに載ってるくらいだし、ただのオカルトマニアの考えたガセネタだろう、何も起きないことくらいは理解してた。
最後の仕上げに指の先から一滴血を垂らして、それで終わりのはずだった。
なのに。
『我を呼び出したのは貴様か』
「ど、どちら様…」
何もない空間から唐突に現れた長身痩躯の男。
瞳が金色で肌は浅黒くて…他は髪の毛から靴まで漆黒に包まれていて…。
明らかに日本人じゃない。
さながら、ロールプレイングゲームの魔王のような…。
『契約を。取り敢えず服脱げ』
「は、はぁ?!」
『煩わしいのは嫌いだ。いい、我が勝手にやる』
ぐいっと魔法陣の中に引き込まれて。
あれよあれよという間に服を剥かれて。
「あ…え、何?」
ご丁寧に下着まで脱がされて、素っ裸になってしまった。
男は満足そうに僕の体を一撫ですると、急に僕の左胸に顔を近づけてきて。
「い、痛い!」
左の鎖骨のすぐ下に、注射されたみたいな鋭い痛みが僕を襲った。
「何するんっ…んむっ!」
抗議の声を飲み込むように激しいキスをされて。
「ぃ゙…あ゙ぁあ゙あ゙あああ゙あ゙ぁあああ゙っ!」
痛い痛い痛い痛い!!!!
さっきの痛みとは比べ物にならない。
その時は何をされたのかわからなかった。
ただ、内臓を抉られて引きずりだされるような、そんな感覚しかなかった。
『初物、か』
「ぅ゙あ゙ぁ…ぐっ…はっ」
『泣き叫ぶ姿も悪くはない、が、行為がトラウマになっても困るしな』
「んん゙ーっ!」
悲鳴をあげるしか痛みを逃す術がなくて、ずっと開いていた口に、鉄臭い液体が流し込まれる。
「ん…ふ、ぁ?」
『ふ、効いてきたか。我が血液は人間にとってみたら最高の媚薬になるらしいからな』
「あっんぁっんっな、に…?!」
急に痛みが無くなった代わりに、体が熱くてその熱を逃したくて仕方なくなった。
苦痛しかなかったはずの律動が欲しくてたまらなくなって。
「ぁ…嫌だ、こんなの…違うのに!」
『気にするな、これは儀式だ』
「ん…ぇ、ぎ、しき…?」
『そうだ、我が名を呼べ。我が名は』
―――グランド・ロイ・フレイア
自分を好き勝手扱ってる男の名前なんて知らなかったはずなのに、勝手に口から零れ落ちた。
その瞬間。
『く…!』
「んぁああっ!」
お腹の中が暖かいもので満たされて、僕はイッてしまった。
あまりの気持ちよさに意識が薄れていく。
『契約、成立だ。愛しき妻を我が城に招待しようぞ』
嬉しそうに男がのたまう。
やっぱり僕、何もしないほうがよかったのかなー…。
もう考えるのも面倒で、そのまま意識を手放した。
【続く?】