唄のカケラ

□箱庭セラピー。
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「睦月っ!」

「へ?あ、秋おはよー」

高校の廊下の向こうから、幼なじみの秋が凄い形相で走ってくる。

「おはよー!…って、そうじゃねぇ!お前高校中退するってどーゆーことだよ!!」

「あぁ、もう知ってるの?早いね」

幼なじみの秋にはまだ知られたくなかった。
俺はあと一ヶ月で最後の夏休みだった高校を今更中退する。
それは…

「もう何が何やら…何があったんだ?!」

「両親が愛人と心中したから。…引っ越すんだ」

「んなっ…おじさんとおばさんが…?!まさかそんな…」

秋は小さい頃からずっと兄弟のように生きてきたから、両親も秋のことを我が子のように可愛がっていた。
秋は突然聞かされショックを隠せないみたい。

「葬式は…?」

「まだだよ。警察から遺体が帰ってこないから」

「…そうか…でも引っ越すって何処に?しかもなんで転校じゃなくて中退なんだよ」

「…」

言ったら秋は絶対反対するから言いたくない。
ちらりと秋を見ると、秋の視線は窓の外に注がれていた。

「?…どうしたの?」

「む…睦月!あれ見ろよ…」

秋の視線の先には、校門。
そこに誰かが車に寄り掛かってこちらを見ている。

「…叔父さん」

「は?え?叔父さんっ?!だってあの人超有名な俳優じゃん!」

「…うん、そうだね」

「そうだね、じゃねーよ!あの 冬弥 だぜ?!すげー…」

そう、俺とは似ても似つかないすらっとした長身痩躯、だけどしっかり筋肉もついていて、誰もが魅了される顔の持ち主が、俺の叔父さん、鳥羽冬弥。
ドラマや映画を中心に活躍している俳優で、ファンに根強い人気がある。
俺の母親の弟で、年は33歳。
ちなみに俺は父親似だったから、全然似てない。
そして、彼が、これから親を失った俺の保護者になる。
高校生ってこともあって生活費すらままならず、叔父さんの他に親戚もいないから、俺を引き取ることは当然に見えるだろうけど。

「…でも睦月が高校やめる必要ないんじゃねーの?」

「あるよ…だって、」

それ以上言えなくて唇を噛む。
叔父さんは俺の身元を引き取る時、条件を出したんだ。
俺に…ペットになれって。
頭おかしくなったのかと思ったけど至極真面目な顔で、その目はとても真剣だった。
高校生の俺は自立して生活できるはずもなく、でも孤児院みたいな施設に入るのも嫌だったから、俺は渋々了承したんだ。
まさか高校まで辞めさせられるとは思わなかったけど。

「…睦月?」

「え、あ、ごめん、何?」

知らない間に考え込んでいた。
秋は怪訝な顔をして覗き込んでくる。

「睦月はなんでも抱え込むんだから…もう少し俺を頼れよ」

「うん、ありがとう…でも辞めるのは、もう決めたんだ」

「…そっか。なんかあったら連絡しろよ?」

「連絡…できたらね」

「え?どういう…」

秋の言葉が言い終わる前に、俺は誰かに肩を掴まれ強く後ろに引かれた。



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