捧貰
□そして愛すべき人へ
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(まさむねとかすがが中学生くらいの頃のはなし)
8月3日。それは、己の大事な半身の生まれた日である。
かすがは悩んでいた。眉間に皺を寄せて、延々1時間近く唸り続けるほど悩んでいた。
それを後ろで見ていた守り役――片倉小十郎は、小さく溜息を吐く。
「かすがさま、そろそろお決めになられませんか?」
「わかってる…!
というか、私と政宗とお前しかいないときはそう呼ぶなと言ってるだろう!!
敬語も辞めろ、気色悪い!」
「…では……オイコラ上杉の忍。いい加減にしやがれ。
俺だって政宗様のお誕生日プレゼントを選びたいんだ」
「……お前は本当に政宗に関しては驚くほど素直だな」
そう。かすがが悩んでいる理由とは、何の縁か。
今世では日にちを跨いだ双子という存在である、伊達政宗への誕生日プレゼントであった。
何故かすががそこまで悩むのか。
それは、常であれば互いに「おめでとう」の応酬をするだけであったのが、今年は何故か、昨日のかすがの誕生日に手料理を振る舞うという、到底真似できない贈り物を政宗がしたからである。
…仮にそれが、あまり口に合わない物であったならば、かすがとて此処まで悩みはしなかっただろう。
(まぁ、大分嬉しかったということもあるので、大差はないかも知れないけれど)
しかし、昔取った杵柄と言うべきか。
「あの馬鹿…!あんな美味い物作るなんて反則だろう…!!」
政宗の手料理は、もの凄く、もの凄く美味しかったのである。
お陰でお返し(というのも変ではあるが)の誕生日プレゼントのハードルが、ぐんと上がった感が否めない。
それ故にかすがはこうして、学校帰りに小十郎を供に、物色に来て悩んでいるのであった。
「あれに釣り合うプレゼントなんて、一体なにが…」
自分は高校生ではない為バイトをしていない。
それはつまり、金がないということを示す。
だけど自分へのプレゼントは、値段がつけられないほど素晴らしい物だった。
そんな、素晴らしい物をくれた政宗への誕生日プレゼント。
見合う物が、見つからない。
(どうしよう。何なら釣り合う?何なら、アイツは喜ぶ?)
そこで初めてかすがは、(嫌々ながらも)後ろに付いていた小十郎を頼ることにした。
眉間に皺を寄せたまま、振り返って口を開く。
「、おい竜の右目。お前ならアイツが喜びそうな物がわかるんじゃないのか?」
「…そりゃ、お前よりはな」
「なら、どれが良いと思う?」
「………さァな?自分で考えたらどうだ?」
「考えてわからないから聞いているんだろうがッ…!!
もういい!!」
ふん!とそっぽを向いて、再び探し始めるかすが。
あれでもない、これでもないと悩むその姿を一瞥して、小十郎は思う。
(お前から贈られた物なら、どんなものだって政宗様は喜ぶに決まっているだろう)
しかし、それを告げるのはなんだか癪である。
けれど、告げない限り小十郎が解放されることはない。
解放されないと言うことは、つまり、自分が政宗へのプレゼントを買いに行けないと言うことである。
その事実に至った小十郎は、依然唸り続けるかすがを見て、もう一度溜息。
(だが、まぁ……)
かすがは、今も昔も変わらぬ、自分の唯一の主のために此処まで悩んでいるのだから。
それを喜びこそすれ、厭うのはお門違いというものであろう。
(……仕方ねぇなぁ)
色々と思考した結果、小十郎はもう少しだけ、悩むかすがに付き合ってやろうと決めたのだった。
そして愛すべきひとへ
(持て得る限りの全ての愛で以て)(精一杯の、贈り物を)
tittle by 選択式御題
2009/08/03 蒼鈍
おまけ
「かすが?」
「〜〜〜っ、こ、これ…!!!」
「…、リストバンド?」
「ほ、ほんとは指輪とかネックレスとかにしたかったんだが…
ネックレスは校則で禁止されてるし、指輪は禁止されてるのもあるが色々と邪魔だし…
その、リストバンドなら、お前も使うかなって…」
「……」
「や、やっぱ駄目か…?」
「そんなことあるわけないだろ?
…Thank you,かすが」
「!そ、そうか…!ならいいんだ。うん」
「大切にするからな」
「……ああ。…誕生日おめでとう、政宗」