捧貰

□My Dear Princess!
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(梵天丸と忍's、というよりむしろ梵天丸と佐助)











ある晴れた、幸せな日の話。





最近、寝る間もないほど何かと忙しかった。
それもこれも皆、今日――8月3日が、大事な大事な愛し子の誕生日の為である。
未だどこか愛におびえている愛し子を、抱えきれないほどの愛情を以て祝うのだという、城内、はては軍全員で決めた数週間前。
それから毎日、幹部・一兵卒・女中・忍び、一切の身分関係なく。愛し子を祝うためだけに奔走してきた。

佐助・かすが・小太郎の3忍も、軍は違えどその思いは強く。
また、上司も認めたために(むしろ祝えない自分たちの分まで目一杯祝ってこいとのお達しだ)こうして「梵天丸様誕生日祝い」に参戦しているのであった。




そして、漸く訪れた当日。



(喜んでくれるかなぁ、梵天丸さま)




祝うための準備も残り僅か。
夜明け頃に己に与えられた役目を終えた佐助は、(まだ与えられた役目をこなしている二人には悪いが)ここ数日姿をまともに見れていない、件の愛し子――梵天丸を一目見ようと、その自室へと歩を進めていたのだった。


(一目見るだけ!一目見たら、かすがたちの手伝いに行くから!!)


誰にともなく言い訳をしながら、佐助は梵天丸の部屋へ続く廊を曲がる。
するとその少し先で、梵天丸が庭に出てぼんやりと木々を見つめていた。


「ぼ、」


あわてて口をふさぐ。此処で声をかけてしまったら、我慢が出来ない。
しかし出てしまったものは最早どうしようもなく。
佐助の声に気づいて、梵天丸が振り返った。



「さすけ」



ててて、と駆け寄ってくる梵天丸。かわいい。可愛すぎる。
ここ数日まともに休んでいない(それも梵天丸の為なら苦ではないが)自分の心身に癒しが染み渡る。
だけれども!ここで自分一人だけが梵天丸に触れてはいけない。

『抜け駆け禁止』

それが3忍の暗黙のルールだったからである。
…ていうか触れたらなんか色々なものが決壊する。


脳内で瞬時に考えた佐助は、にっこり笑って手を振って。
不自然じゃないように、その場を去ろうとした。
けれど、くん、と何かに引っ張られた感覚に動きが止まる。
何事かと見遣れば、さりげなく立ち去ろうとした佐助の服の裾を、ちいさな両の手で掴む梵天丸の姿。

振り払おうと思えば出来るほどの僅かな力だったが、そんなことが出来る人間などこの城にはいないのである。
加えて不安げに揺らめく左目に、浮かんだ滴と来れば――到底佐助には無理な話だ。(最も、端からそんなつもりはないが)



「梵天丸さま、どうかした?」


「さすけ……その、」


「ん?」



しゃがみ込んで目線を合わせて、続きを言い易いように微笑めば。
梵天丸はおそるおそると言った体で、口を開いた。



「梵のこと、きらいになった?」



震える声で告げられた言葉に、佐助は一瞬固まって。
次いでだらだらと冷や汗を掻きながら、心の中で自問自答を繰り返す。
なにがどうしてそうなった?え、俺様なんか変なことした?
表面上で何も反応を返さない佐助に、それを肯定と受け止めたのか、梵天丸は俯いて、黙り込んだ。
そんな梵天丸の様子に、佐助は自分が失態を犯したことに気づくのだった。



「ち、違うからね梵天丸さま!嫌いなわけ無いじゃん!!だいすきだよ!!!!」


「、べつに、むりしなくて、いい」


「ほんとだよ!ほんとのほんとだからね!!!命賭けたって良い!!
ねぇだからお願い信じて…!!」


「……さすけ、」


ちょっと半泣きになりながら言い募る佐助。
そこには真田忍隊長の面影なんて欠片もないが、そんなこと今の佐助にはどうでも良いことのようだった。
その必死な姿に、嘘はついていないと感じたのだろう。梵天丸はふわ、と小さく笑む。



「ありがと…」



「〜〜〜〜あーーっもう!こんな可愛い子嫌いになんてなれるわけないじゃん!!!」


はにかんで紡がれた言葉。佐助は、あまりの可愛さに梵天丸を抱きしめて。
それからひとしきり梵天丸を堪能した後、どうしてそんな考えに至ったのか問いかけた。
すると、



「、かすがも、こたも…みんな、なんだか今日、よそよそしくて…」


「あー…」



どうやら、愛し子を喜ばせようとした行動が裏目に出てしまったようだ。(かく言う自分もそれに荷担しているが)
かすがも、小太郎も。みんなみんな、喜ばせたいが為必死だっただけなのだが。


(…準備が全て終わるまでは内緒にしておくって言う約束だったけど)


喜ばせたい、何より大事なこの愛し子を不安にさせてしまうなら、元も子もないだろう。
そんな約束、捨ててしまえ。

この愛し子のために奔走しているであろう自分以外の者達に、佐助は胸の内でこっそり謝罪して。
それから、未だ不安げに眸を揺らす梵天丸ににっこりと笑いかけ、訊ねる。



「ねぇ、梵天丸さま。今日は何月何日?」



佐助の問いに、考え込むように目を伏せた梵天丸。
少しの間をおいて、何かに気づいたように顔を跳ね上げたその顔は、僅かな期待に彩られ。
しかしまだ信じられないのか。うろうろと視線をさまよわせて戸惑うその様子に、堪らずに佐助は、幼いその体を力一杯抱きしめた。



「え、えと、さす、け」


こつん、と額を合わせて、裾を掴んだままだった手をほどいて握りしめて。
きっと、この愛し子が求め、自身もずっと言いたくて仕方なかった言葉を、佐助は紡ぐ。



「誕生日おめでとう、梵天丸さま」



直後、大輪の花のような笑顔が咲いた。




My Dear Princess!
(あぁ、やっぱり笑顔が一番可愛い!!!大好きだよ、梵天丸さま!)(…梵も、佐助が大好きだ)
(〜〜〜〜〜っっっっ!!!!(感涙))




2009/08/03 蒼鈍



おまけ


「………佐助」


どろどろとした暗鬱な空気が背後から漂ってきた。
あ、やばい。そう思いながら佐助は、冷や汗を流す。

「…………」

無言の圧力とはこのことか。先程までの幸せいっぱいな気持ちが一気に押しつぶされた。
おそるおそる振り返ると、やはり思った通りの人物達がいて。
へら、と笑って「どうかした?」と問いかけた瞬間、更に空気が重くなる。

(やばいやばい。コレは確実に俺様殺られる…!!で、でも梵天丸さまを悲しませたくなんてないし…!)

本気で佐助が死を覚悟した時、救いの手がさしのべられた。

「かすが、こた!」

梵天丸が嬉しそうに二人の名を呼んだ途端、般若の形相や威圧感たっぷりの空気は消え失せ。
かすがは満面の笑みに。小太郎も僅かに頬を緩めた。

「さすけから聞いた……ふ、ふたりとも…その……あ…ありが、と」


耳を赤く染めて、でもしっかりと二人の目を見てそう言った梵天丸。
ああ、可愛いなぁ、と和んでいた佐助であったが、気づいたときには床板とこんにちはをしていて。

(痛ぇええっ!!つかいつの間に!!)

飛び起きて自分を突き飛ばした張本人達を見遣れば、心底幸せそうに梵天丸を抱きしめている姿が目に飛び込んできた。

「ちょ!俺様だけ除け者禁止!!!!!!」




これはそんな、ある晴れた幸せな日の話。






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