捧貰

□愛だけで満たされた声で
1ページ/1ページ



(幼児化忍'sと政宗)












果てさて。一体どうしたというのか。
政宗は夏の日差しに照らされた廊を歩きながら、思う。
それもそうだろう。
いつもならば起床と同時(或いはそれより早く)に、政宗の傍をついて回る3人の子供たちの姿が、何故か今日は昼を過ぎた今になっても見えないのである。


(もしかして、火急の任で主に呼ばれたのか?)


いや。それはないか。
精神も肉体も5歳児に還ってしまった彼ら(目下、原因を探し中である)を、あの主たちが任に付かせるとは思えない。
そもそもそのような気があったら、弱点にもなり得る彼らを政宗の元へ預けるなんてことをしないだろう。
というか、あの主たちは彼らに政宗が危害を加えるとは考えなかったのだろうか。
…そのようなつもりは、政宗には全くないけれども。随分とまぁ、信頼されたものだ。

はぁ、と疲れたからと言うよりも、面映ゆいような心を隠すように政宗は溜息を吐いた。


「ったく。何処行きやがった彼奴ら…」


賑やかな彼らがいない。集中しきれず滞っていた政務が、今日は捗るだろう。
小十郎に怒られないし。今日は料理も出来るかも知れない。読みかけの本がやっと読めるかも知れない。
良いことづくしではあるけれども。だけど。

佐助が何か言って。それにかすがが怒って。言い争う二人を宥めていると、構って欲しそうに服を引っ張る小太郎。
彼らがいないと少し――物足りない気が、する。


「俺も毒されてんなぁ…」


そう言って苦笑した後、政宗は3人を探すため歩を進めたのだった。




***




「かーすーがー…」


木の枝に脚をかけ、揺れながらぶら下がった佐助が、恨みがましそうな声を上げる。
じと目付きで名を呼ばれたかすがは、木の幹にもたれたまま不貞腐れるようにそっぽを向いた。


「なぁ、これほんとに竜の旦那の為になんの?」


「……うるさい。大人しくしてろ」


「おれさま、今日は朝一番に竜の旦那に“誕生日おめでとう”って言って、誕生日ぷれぜんと渡すつもりだったのになー。小太郎もそうだろー?」


「……(こくり)」



佐助の言に同意するように、僅かではあるが小太郎は首肯する。
だってさ!とどこか得意げに言う佐助の顔に、かすがは肘鉄を食らわせた。


「いってぇええっ!!なんだよかすが!お前は違うのかよ!!」


「う、うるさい!!わたしだって独眼竜の誕生日を祝いたかったに決まってる!!」


「じゃあなんで竜の旦那から隠れるようにしてこんなトコにいなきゃいけないんだよ!」


「仕方ないじゃないか!!普段わたしたちが付きまとうせいで独眼竜は政務が進まなくて、自分の時間が持てなくて、挙げ句の果てに竜の右目に怒られてしまうんだ!
だから誕生日である今日くらいは傍を離れて、わたしたちのことなんて気にしなくて済むようにだな…!」


「なら普段付きまとうの止めたらいいじゃん!!」


「貴様それが出来るのか!!!!」


「無理!!!!!」



即答した佐助に、かすがは怒りから顔を真っ赤にしてクナイを投げる。
それを危なげなく避けた佐助は、一回転して枝の上に立った。



「おれさまは竜の旦那の傍にずっと居たいんだよ!」


中身も外見も幼くなった彼らではあったが、腐っても忍びである。
クナイと大型手裏剣を以て目にもとまらぬ速さで打ち合いながら、言い争う佐助とかすが。
そんな二人のやりとりを黙って見てから、小太郎は庭に目を遣った。
それから、動きを止める。
―――長い赤毛に隠れて見えはしなかったけれど。おそらく、大きく眼を見開いて。




「居たいなら傍にいればいいじゃねぇか」



かけられた言葉と、その声にかすがと佐助も動きを止める。
かしゃんかしゃんと、各々の得物が落ちるのも気にせず、ぽかん、と声の持ち主を見つめ。
なんで…と呟くかすがに、酷く楽しそうに政宗は笑った。


「竜の旦那…!」



着物の裾を翻しながらゆったりと3人の元へ歩いてくる政宗に、佐助は勢いよく飛びつく。
その反動で僅かによろめいた政宗だったが、すぐに体勢を整えて、腰元に抱きついて離れない佐助の頭を撫でた。
そして腰に佐助をくっつけた状態で、じっと動かない小太郎とわなわなと震えるかすがを手招く。
唇をかみしめたかすがは、小太郎の腕を引っ張って、呼ばれるままに政宗に抱きついた。



「賑わしい奴らが急にいなくなると、なんだか物足りねぇんだよ。
…っていうか、ガキが遠慮なんてすんな」



佐助と同じように政宗が二人の頭を撫でるが、かすがは腰元に顔を埋めて何も言わない。
そんなかすがの頭を、ぐしゃぐしゃと掻き乱すと小さな悲鳴が上がる。
乱れた金糸を押さえて、怒ったように顔を上げたかすがに、政宗は笑いかけた。



「まぁ、アレだ。お前らはそうやって、俺の傍にいればいいんだよ。」



な、と大人しく頭を撫でられていた小太郎に話を振る。
すると小太郎は、珍しくも小さく笑い、頷いた。



「ずるいー!竜の旦那、おれさまも撫でて!」


「貴様はわたしたちよりも先に撫でて貰ったろう!文句言うな!!」


「……」



佐助が口を開いた途端、いつも通りの雰囲気になった3人に政宗は吹き出して。
きょとんとする3人の頭を一度ずつ撫で、笑いながら問いかけた。




「で、お前ら。俺になんか言うことはねぇのか?」




そう言われて3人は顔を見合わせる。
ああ、そうだ。自分たちはまだ、ずっと伝えたかった言葉を贈っていなかったではないか。


それから、3人頷き合い、

佐助は満面の笑顔で、
かすがはちょっと照れたように、
小太郎は僅かに頬を緩めて、



最大限の気持ちを込め、言葉を紡いだ。




「「「Happy Birthday!」」」





愛だけで満たされた声で
(貴方がこの世に生まれた日に)(ありったけの、感謝を)





Tittle by 群青三メートル手前

2009/08/03 蒼鈍



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ