捧貰

□ああ 瞳が眩むような
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夏の暑さも、夜になれば随分と収まり。
涼やかな声を聞かす虫に惹かれるように外をのぞけば、風が頬を撫でる。
湿気があまり含まれていないそれは酷く心地よく。
眸を閉じて、静かに夏の匂いを感じた。



「……良い日だ」




窓枠に凭れかかり、腕を闇に伸ばす。
夜空に輝く月に手をかざして、握りしめれば。まるで月を手に入れたかのような気持ちになった。



(…ガキか、俺は)




そう思いながらも、こみ上げてくる笑みに。
音を成しはしなかったが、肩を震わせて笑う。




(いいや、俺は未だガキだ。
1つ歳を取ったくらいで、何が変わるわけでもなし)



何故だか今日はやけに喧噪が少なかった、己の護りたいものたちを振り返る。
『お誕生日おめでとうございます』
『生まれて来てくださって、ありがとうございます』
各々の言い方で。だけど込められた想いに差などなく。
心から生まれたことを祝ってくれた―――かけがえのない、者達。


(礼を言うのは俺の方だ。
幾度も幾度も、俺の我が儘に付き合ってくれて。
迷惑ばかりかけただろう俺を、変わらぬ想いで慕ってくれて)



これから先。また俺はお前達を振り回すだろう。
俺は、俺の心を曲げるつもりはないから。
…それでも、俺を慕ってくれるというお前らは、本当にどうしようもないくらい馬鹿で阿呆で考え無しだけど。
だけど。



「そんなお前らに、出会えて良かった」





あぁ 瞳が眩むような
(幸せに満ちた今を)(俺は決して夢にはしない)



ありがとう。ありがとう。ありがとう。
こんな俺に、ずっと、ずっとついてきてくれて。

本当に――――――ありが、とう。





Tittle by 選択式御題


2009/08/03 蒼鈍




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