捧貰

□スペシャルスマイル
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「ねえ羅漢さん?師父って笑いませんよねえ」

ある日の飲食店で。
一旦階下へと向かった一葉が戻るのを待つ間、滇紅がぼやく様にそう言った。




スペシャルスマイル



毎度の如く一葉と滇紅にたかられて。
残金を案じ財布を覗き込んでいた俺は、その唐突な振りに顔を上げた。

無愛想で、無表情で、常にマイペースというか。
決して冷たいわけじゃないけど、一葉はあまり笑顔を見せない。

「勿体無いですよねー?笑えば絶対可愛いのに」

「勿体ない?…可愛い?」

そんな発想の無かった俺は、意表をつかれて面食らう。
だけど言われてみれば確かに…うん、可愛い、かも。

「まあでも、それはお前にも一因があるんじゃないか?」

普段の滇紅の間抜けっぷりを思い苦笑すれば、彼が膨れっ面になる。

「あーっ酷い!じゃあ羅漢さんは見た事あるんですか?師父の笑顔!」

「え」

痛い所を突かれた。
そりゃ俺だって一葉の笑顔といえば、「ふ、」とか「はっ、」とかいう嘲笑くらいしか記憶に無い。

「ほらっ?俺と同レベル」

悔しい。

「うっ、じゃ賭けるか!?どっちが先に一葉の笑顔をゲットするか!」

「いーですよ!!受けて立ちますっ」

「…何だ?えらく盛り上がってるな」

丁度そこへ、一葉が帰ってきた。

お前の話してんだよ!と突っ込もうとした俺達は、しかし言葉を失う。
振り向きざま信じられない光景を目にしたからだ。
一葉のその、眩しいほどの満面の笑顔を。

「し、師父…っ!?」

「一体何が…っ!?」

ふと、彼が膨れた紙袋を大事そうに抱えているのに気付いた。

「一葉、それは?」

包みを指して尋ねれば、一葉はよくぞ聞いてくれたとばかりに得意げな顔をする。

「おう!驚け、狙い通り3等だ」

見れば袋の中には沢山の蒸饅頭。
そういえば、彼は店頭で配っていた福引券を手に1階へ向かったんだっけ。
"3等景品・点心盛り合わせ"という記載を見るなり一目散に…。

一葉はことさら至福の笑みを浮かべると、俺たちにキッパリとこう言ってのけた。

「あ、言っとくがお前らにはやらんからな!これ全部俺の!」




点心相手に惨敗。
俺たちの心には何とも言えない虚しさだけが残る。

「…これ、引分けですか?それとも…二人共負け?」

「…どっちでもいいよ、もう」

願わくば一葉。
甘味に向けるその笑顔、少しでいいから分けてくれ。





/ありがとうございますっ
あたしも一葉に笑ってほしいです・・←


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