捧貰
□覚めない夢を
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「……愛してたんだろうな、きっと」
ぽつりと呟かれた言葉に、一瞬何を言われているのか分からなかった。
目を開けハイネを見遣れば向けられる、優しい瞳。
無償に泣きたいと思ってしまった。
どこか恥ずかしそうに視線を逸らせてしまう彼の姿に、彼らしいと思う反面、小さく嗚咽が零れていた。
ああ、私も言ってもらいたかったのだろうか、誰かに。
愛だなんて言葉、信じていなかったけれど。
初めてハイネと出会った時、彼はそんな私の言葉を聞いてくだらないと嘲け笑った。
そしてそんなものを信じてなんになる?と逆に問われもした。
そんな彼が今この時私にそんな言葉を言うだなんて。
きっと、天使の羽を持ったあの少女のお陰なのね。
自嘲気味に笑う私に、ハイネは怪訝そうに視線を向けた。
真紅の瞳は今まで見てきたどの赤よりも、美しい。
「愛されたい、と願うことは罪なのかしら」
ハイネは、大切な妹をその手で殺したのだと言った。
私はこの右腕を、誰よりも慕っていたはずの兄に引き裂かれたのだと言った。
私は笑っていたかもしれないし、ハイネは泣いていたかもしれない。
初めて彼と出会ったとき私の腕は、兄に肉を裂かれとても醜かった。
私と初めて出会ったハイネの頸には、銀の首輪がその存在を主張していた。
それでも私はそんな彼を美しいと思ったし、彼は私の腕を見て顔を顰めることなくその腕もお前のものだと微笑んだ。
今思えばそんな出会いがあっていいものかと思うけれど、あの時の私にとって彼の言葉にどれほど胸を打たれたことか。
その時からきっと、私はハイネを――…
「さぁ、どうなんだろうな」
愛だなんて言葉、今も昔も信じていないけれど。
それでも、この胸がどこか晴々としているのは確かだから。
もし、この手が何かを守る為にあるのだとしたら。
この声が誰かを笑顔にさせる為にあるのだとしたら。
この足が、大切な人たちと共に歩んでいく為にあるのだとしたら。
この腕が、この動くことのない醜い腕が、彼のために伸ばせることができたら、と。
彼の涙を拭ってあげられたら、と。
縮まることのない距離の先にいる彼の横顔に、そう願った。
醒めない夢を
(また明日も、私は大切なものを守り生きているのだろうか)