お題

□これから出会うものすべてに君を重ねてく
1ページ/1ページ




今日はイタリア全土で太陽を見ることはできない、雷を伴った雨か降るところもあるでしょう、そんな感じの予報が出ている通り今日の天気は最悪だ。
アジトの周りでも雷が鳴り出してきたから、それを合図に剣を納めてスクアーロと共にアジトに戻った途端にバケツをひっくり返したような雨が降り始めた。
あまりのタイミングの良さに二人して笑いながらアジト内を歩いていたら大きくなった塗装された地面を叩きつけるような雨音と走り込む足音が、大きく音を立てて開かれたドアから濡れ鼠になったカップルとともに入ってきた。
張り付いた洋服から水を絞りながらこちらに気がついて近付いて来たベルの後ろにいる桜は顔色が悪い。
ベルはそんな桜に気がつかずに話しかけてくるけれど、桜はここから移動したそうに俯いてる。
あんなことを言われたらそりゃあ気まずい、というか怖がるのも不思議じゃない。


「風邪ひかないように早く着替えなよ」


スクアーロに絡むベルに声をかけてすぐさまその場を離れたあたしは、何故か街中にいた。
少しだけ雨が落ち着いたその瞬間にアジトを飛び出したのだが、様々な店舗が並ぶ馴染みの街に人の姿はほとんどなく、この悪天候によって開いていない店も少なくない。
湿って少しだけ天パが落ち着いた髪の一房を弄りながらclosedの札がかけられたカフェの店先で降り出した雨を見ていた。
財布も携帯も持ってきているのだが、迎えを頼むのも傘を買うのもホテルを探すのもなんだか億劫で、ただただ空を見ながらぼんやりとこの後どうしようかと考える事くらいしかすることはない。
そんなあたしの視界にふと見覚えのある顔が入りこんだ。


「ったく、こーんなところで何やってんだよ?」

「…それはあたしのセリフでしょ」

「どっかのお姫様を迎に来たに決まってんだろ。ほら、帰ろうぜ」

「…どこによ……-」

「そんなの、」

「仕事もないし、ミルフィオーレに行く理由はないから。」

「なんだ、バレてたのかよ」


声をあげて笑いながらそんなことを言う目の前の人物が憎らしい。
分からないだろうと思って話しかけたみたいだけど舐めないで欲しい。あたしのベルへの想いは前世から継続しているくらいなのだから、本人とその兄ラジエルの区別なんて簡単に決まってる。


「筋金入りかよ!!
で、何でそんなに想われてる愚弟はオヒメサマの側に居ないんだよ。」

「………あたし、やっぱりあんた嫌い」

「はあ?…しっしっし、もしかしてあいつに振られたのかよ!!」

「そうだけど!?」


一見するとベルと同じ顔だというのがあたしを油断させたのかもしれない。
返答が感情的な叫び声になった挙句、泣きそうになるなんて、こんなにペースが乱されるなんていつもなら有り得ないんだから。
笑ってたラジエルが静かになる。
ベルと同じように長く伸ばした前髪で表情が隠されて伺いにくいけれど、あたしの言動で随分驚かせてしまったんだろうと彼が纏う困惑したような空気からそれを感じるけれど、どうにもできない。
話していて自分のペースがどんどん崩されていくと感じているのは多分お互い様だろうけどあたしはこの気持ちの落ち着かせ方なんて知らない。
この場は逃げるのが一番なんだろうけど、鏡写なその顔のせいで彼だけじゃなくベルからも逃げることになりそうな気がする。


「…マジで?こんな優良物件捨てるとかアイツバカじゃねーの??」

「知らないよそんなの。
ベルにとってはあたしみたいな女は見慣れててつまらないから全部が劣ってる日本人の女の子なんかに手を出したんじゃないの。
随分と惚れ込んじゃってるけど。」

「…しっしっし、ボンゴレのお姫様ともあろうものが随分と嫉妬に狂ってんじゃねーか」

「っ、真実だもの!
顔もスタイルも能力も地位も、ベルと過ごした時間だって、全部が全部あたしの方が上なのにあんななんにもできないような女に取られたのに平然としてろっていうの!?
そのへんの男なら寝取られたとしても奪い返すのは容易だけど相手はベルなんだもん、嫌われたくないしあたしの醜い部分なんて知られたくない!!こんなこと相談できる人だっていない!何度あの娘が死ねばいいと思ったことか!!!」


あたしの叫びに本気で驚いているラジエルは暫く肩を上下しながら息をするあたしを見ているだけだったが、しばらくすると持っていた黒い傘を差し出して屋根になっていた店先からあたしを引っ張り出した。
渡された傘で雨をしのぐあたしの腕を引き、早足で石畳の上を進むラジエルは頭から水をかぶって上質な白いジャケットにシミを作っている。


「なんなの!?」


意味がわからない。
ただ腕をひかれるままにラジエルの後をついて行ったあたし目に入ったのは黒い車というかリムジン。
これに乗せられたら向かう先はミルフィオーレ一択だとわかって抵抗をしたけれども、それよりもラジエルの行動の方が早く、乱暴に扉を開けたと思ったらそこにあたしを押し込んで運転席に座る人物にタオルを要求していた。


「ちょっと!なんのつもり!?」

「オルゲルト、このまま白蘭様のところに戻れ」

「承知しました」

「ラジエル!聞いてるの!?その耳は飾りじゃないでしょ!?」

「お前さぁ…自覚してんのかどうか知らないけど、今のままボンゴレに身を置いてたらダメんなるぜ?少しくらいあの環境から身を遠ざけたら?」

「っ、遠ざけるって言ったって…」


ダメになるとか言われて、あぁ確かにと思う部分はあるけれど、あたしはボンゴレの大地の守護者で、ヴァリアーの幹部で、裏社会でも有名な暗殺者で…飴玉を転がすようにあまり音を出さないでつぶやいていたら、逸らしていた視線の隅に黒く塗られた男の指が移る。
指を辿ってラジエルを見ると、馬鹿にするような声で「いくらでもあるだろ」とデコピンを見舞われた。
穴でも開ける気だったのかと思うほど力の込められたデコピンを受けた箇所を摩るあたしの目の前に、ラジエルは中指と人差し指の二本を立てた手を出す。


「ボンゴレ大地の守護者を利害関係なく受け入れて、尚且つボンゴレからの圧力なんかも受けないマフィアは2つだ。
ジェッソとミルフィオーレ。
どっちで療養したいかどうかはお前の自由だけど、とりあえず今は白蘭様のとこに連れてくから。」

「…なんでこんなことしてくれるの?
確かにジェッソもミルフィオーレもボンゴレの大地の守護者を受け入れるだろうけど、それはそれぞれのボスとおたしが親しいからでしょ。
貴方がこんな自分の利にならないことをするとは思えないんだけど。」

「愚弟の相棒がどんな女なのか気になっただけだ。
まっ、自分を保てなくなるまであいつに振り回されてんなら俺の事ベルフェゴールだと思ってもいいんだぜ??」

「…あたしが、ベルの表面しか見てない人間だったら貴方のこともベルだと思い込めたんだろうね。」




これから出会うものすべてに君を重ねてく



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ