獣の奏者エリン


あの日、あの時
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 真王がカザルム王獣保護場へ行幸したあの日から、ずっと思っていたことがある。


 『……夜明けの鳥。』


 15歳のあの日。

 サリムの町で、初めてエリンに出会ったとき。

 おれがエリンに〈操者ノ技〉を編み出すきっかけとなった竪琴を渡していなければ、彼女は今頃、どんな生活を送っていただろう。


 『ならばためらうな。』

 『命を救う時は、ためらってはいけない時がある。それは堅き楯〈セ・ザン〉も医術師も同じだろう。』


 エリンと深い関わりをもつことの無いよう、あの場をすぐに去っていたら。

 竪琴の細工の仕方を教えなければ。


 『吹かないでください!』


 真王がリラン親子に近づきすぎて襲われそうになったとき。

 エリンがあの竪琴を手に持って、王獣に触れんばかりのところに立ち、弦を奏でている姿を見たときの衝撃は相当なものだった。

 それはきっと真王もダミヤも同じで、あの時から彼女の行く末が定まりつつあったのだろうと思う。

 もし、真王がカザルム王獣保護場へ訪れることがなければ、彼女は今もなおリランに乗って自由に空を飛び、

 誰に咎められることもなく王獣と心を通わせていただろう。


 あの日、竪琴を渡さなければ……。
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