獣の奏者エリン


二人の幸せ
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 「リラン、エク、アル。外に行っておいで。」

 ゆっくりと戸口を開くと、王獣舎に眩しいほどの光が差し込んできた。

 その光をいっぱいに浴びたリランたちが、思い思いに草原へと向かう姿を眺めながら、よし、と一つ意気込んだ。

 「掃除しなくちゃ。」


 イアルさんの家を訪ねてから1ヶ月が経とうとしていた。

 (あのままでいたら……。)

 心に底知れぬ不安を抱え続け、誰にも打ち明けずにいたら、今ごろどうなっていただろう。


 降臨の野〈タハイ・アゼ〉での出来事から、目には見えないけれども確実に存在している、リランや私たちを縛る掟。

 その息苦しさで押しつぶされそうになったとき、脳裏に浮かんだのは、学童の頃に長く生活を共にしたユーヤンたちではなく、
 
 誰よりも私のことを理解しているエサル師でもなく、あの物静かな堅き楯〈セ・ザン〉の男だった。

 彼になら話せると思った。

 他人の心には深入りせず、けれどこの国の仕組みをよく理解し、何が正しいのかを冷静に見極めることができる彼なら、と。

 
 一度だけ、ただあの日だけ、話を聞いてもらえただけでも十分救われたのに、彼はこれからも私のわがままに付き合ってくれるという。

 それがイアルさんにとっても救いになるのだと。

 その一言で、再び彼をこの国の政と繋がりを持たせてしまうのではないかという一抹の不安が、少し和らいだ。

 (なんて優しい人だろう。)


 ぼんやりと今までを振り返りながら仕事をしていると、すっかりと日が暮れてしまった。

 そろそろリランたちが戻ってくるだろうから、早く仕事を終わらせなければと思っていた時、戸口から自分の名を呼ぶ声がした。


 「エリン。」
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