獣の奏者エリン


大切な人
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 今日は、エリンがおれの家に引っ越すことをエサル師に報告するというので、カザルム王獣保護場に来ている。

 「……なんて言ったらいいかな。」

 何かぶつぶつ呟やきながら学舎を歩いているエリンの横顔は、どこか嬉しそうに見えた。

 そして、教導師長室の前で足を止めた。


 「教導師長さま、エリンでございます。」

 「……入りなさい。」

 少し経って返事が来たので、扉を開けて中に入った。

 「失礼します。」

 「今日は何です? リランのこと? ……あら、あなた。」

 エサル師は、エリンの後に入ってきたおれを見て、少し驚いた顔をした。

 「失礼します、イアルです。」

 おれ達の様子を見て、感づいているようだったが、少し口元を緩めて言った。

 「二人で、何か用かしら?」

 「えっと……、近々イアルさんの家に引っ越すことになったので、ご報告にきました。」

 おれも軽く頭を下げる。

 僅かに顔を赤らめて言うエリンが、すごく愛しく思えた。

 「そう……、ではあなたの部屋は空きになるわね。」

 「きちんと掃除をしてから出ますので。」

 「分かってるわ。……エリン、少し話せる?」

 エサル師はそう言ってからおれに視線を移した。

 きっと二人きりで話したいことがあるのだろう。

 「では、私は失礼します。」

 「えぇ、わざわざカザルムまで来たのだから、少し学舎を見ていってはどう?」

 「はい。」


 そうして教導師長室を出て学舎を歩いていた時。

 「あっ、あなたは堅き楯〈セ・ザン〉の……イアルさん? どうしてカザルムに?」

 何度か見覚えのある顔だった。

 (確か名前は……。)

 「トムラ師……ですか?」

 「はい、教導師のトムラです。」
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