獣の奏者エリン


彼へ
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 (イアルさん。)

 あなたは幼い頃に家族のもとを離れて、十分な愛情を受けず育ちました。

 私はあなたに愛情をあげたくて、愛を感じてほしくて、そして、闘蛇のように生きていたあなたの心が知りたかった。


 堅き楯〈セ・ザン〉を辞めた後、普通の民として暮らしているあなたはいつもどこか緊張していて、まだ「普通」に慣れていなくて、

 それでも、最近は自然な笑顔を見ることが増えてきて、嬉しかったんです。



 そうしたら欲が出てきてしまって、もっといろいろなあなたの顔が知りたくて。



 ――そしていま目の前にあるのは、どこか儚げな瞳をしている、見たことのない彼の顔。


 床に仰向けになっている私。

 私に覆いかぶさるように馬乗りになっている、イアルさん。




 「イアルさん……? あの……。」

 「……いやだったら、そう言ってくれ。
 
 すぐ、やめるから。」





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