獣の奏者エリン
□彼へ
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(イアルさん。)
あなたは幼い頃に家族のもとを離れて、十分な愛情を受けず育ちました。
私はあなたに愛情をあげたくて、愛を感じてほしくて、そして、闘蛇のように生きていたあなたの心が知りたかった。
堅き楯〈セ・ザン〉を辞めた後、普通の民として暮らしているあなたはいつもどこか緊張していて、まだ「普通」に慣れていなくて、
それでも、最近は自然な笑顔を見ることが増えてきて、嬉しかったんです。
そうしたら欲が出てきてしまって、もっといろいろなあなたの顔が知りたくて。
――そしていま目の前にあるのは、どこか儚げな瞳をしている、見たことのない彼の顔。
床に仰向けになっている私。
私に覆いかぶさるように馬乗りになっている、イアルさん。
「イアルさん……? あの……。」
「……いやだったら、そう言ってくれ。
すぐ、やめるから。」
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