獣の奏者エリン
□昔
1ページ/15ページ
たくさんの人に祝福された<婚姻ノ儀>から数日後、私とイアルさんは、リランに乗って空を飛んでいた。
リランもイアルさんには慣れたようで、近づいても警戒しなくなった。
そして、おもいきって私のようにリランに乗ったら、空を飛んだのだ。
リランはあまり高いところまでは飛ばなく、雲より下を飛んでいる。
風は冷たく、風の音が轟々と聞こえる耳の近くには、イアルさんの顔がある。
「大丈夫ですか? イアルさん」
「あぁ、大丈夫だ。……まさか飛んでくれるとはな」
初めは、エサルにもトムラにも慣れないリランが、いったいどこまでイアルに慣れるのか、
という好奇心でリランに乗ったのだが、まさか飛ぶとは思わなく、
地上では学者の人たちが驚きの顔でこちらを見上げていた。
「私もびっくりしました、今まで本当に私以外には誰にも慣れなかったんですよ。
……王獣の心は不思議ですね」
「そうだな………
風が、心地良い」
「はい」
リランは特にどこかへ行くこともなく、気流を見つけては楽しそうに喉を鳴らして飛んでいる。
それが突然、何を思ったのかは分からないが東の方向に一直線に進んだ。
ものすごい速さで、騎乗体に乗っていない私は振り落とされそうになる。
「リラン! どうしたの? 降りて!」
リランにエリンの声は聞こえていないのか、何も反応せずただ一直線に、東へ向かっている。
「リラン!」
何度呼んでも言うことを聞かない。
そのとき、突然強風が吹き、体がリランから離れた。
あっ……と思ったとき、イアルさんの手が、私の体を抑えた。
「大丈夫か。おれが覆いかぶさってるから、エリンはリランの背にしっかりつかまってろ」
「はい、ありがとうございます」