獣の奏者エリン


互いに
1ページ/3ページ



 おれとエリンは今、カザルム王獣保護場の王獣舎にいる。

 最近では王獣舎の中に入っても、リランたちがおれに警戒することは少なくなっていた。


 一通りの世話が終わったエリンと話をしていたとき、放牧場の入り口にエサル師の姿が見えた。

 何か話があるのか、と思ったが、自分たちに声をかける様子はなく、ただその場からこちらを見ているだけだった。


 夕方になり、エリンは外にいたリランたちを王獣舎に入れた。

 そうしてエリンの仕事が終わったので、家に帰ろうと王獣舎を出ると、エサル師が立っていて、いつもと変わらぬ顔で言った。

 「お疲れさま。」

 エリンが黙って頭を下げた。

 そして、エサル師がおれのほうを見た。

 「……リランたち、かなりあなたに慣れたわね。」

 「はい、私自身も驚いております。」

 「教導師長である私にも、ほかの教導師たちにも慣れていないというのに。」

 「イアルさんは音無し笛を吹いていないし、私が彼を警戒してないので、大丈夫だと感じたのでしょう。」

 「そう。でも、分かっていると思うけれど、王獣は獣。決して人に慣れることはない。

 ……これ以上は近づきすぎず、常に警戒心を持っていたほうがいいわ。」

 「はい、承知しております。」


 そして、エサル師は黙り、その後いたずらな笑顔を見せて言った。

 「エリン、あなたまだイアルさんに敬語でしょう? 夫婦になったのだから、呼び方とか、変えたりはしないの?」

 「え……?」

 「敬語はやめて、名前で呼び合ったりしてみたら?」

 「ええと……。」

 「じゃあね。」

 そう言うと、エサル師はおれたちから離れていった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ