獣の奏者エリン
□互いに
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おれとエリンは今、カザルム王獣保護場の王獣舎にいる。
最近では王獣舎の中に入っても、リランたちがおれに警戒することは少なくなっていた。
一通りの世話が終わったエリンと話をしていたとき、放牧場の入り口にエサル師の姿が見えた。
何か話があるのか、と思ったが、自分たちに声をかける様子はなく、ただその場からこちらを見ているだけだった。
夕方になり、エリンは外にいたリランたちを王獣舎に入れた。
そうしてエリンの仕事が終わったので、家に帰ろうと王獣舎を出ると、エサル師が立っていて、いつもと変わらぬ顔で言った。
「お疲れさま。」
エリンが黙って頭を下げた。
そして、エサル師がおれのほうを見た。
「……リランたち、かなりあなたに慣れたわね。」
「はい、私自身も驚いております。」
「教導師長である私にも、ほかの教導師たちにも慣れていないというのに。」
「イアルさんは音無し笛を吹いていないし、私が彼を警戒してないので、大丈夫だと感じたのでしょう。」
「そう。でも、分かっていると思うけれど、王獣は獣。決して人に慣れることはない。
……これ以上は近づきすぎず、常に警戒心を持っていたほうがいいわ。」
「はい、承知しております。」
そして、エサル師は黙り、その後いたずらな笑顔を見せて言った。
「エリン、あなたまだイアルさんに敬語でしょう? 夫婦になったのだから、呼び方とか、変えたりはしないの?」
「え……?」
「敬語はやめて、名前で呼び合ったりしてみたら?」
「ええと……。」
「じゃあね。」
そう言うと、エサル師はおれたちから離れていった。