獣の奏者エリン


10日間
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負傷という口実で、10日間休みをもらってカザルムに帰ってきた日から、3日が経つ。

日が経つたびに、もうエリンとジェシと、こんなふうに暮らせるのは最後ではないか、という思いが強くなる。

なるべくたんさん、思い出を残したかった。

………もう二度と、こんな日が来なくても、淋しくないように。

毎日、ジェシの様子を見たり、エリンが訓練場から帰ってきたら、王獣舎で話し合ったりする日々だった。


ジェシにとって、10日間も家族が近くにいれる日はいままでになくとても貴重な時間で、
エサル師に怒られるのを知っていて毎日エリンの寝ている小屋に来ていた。

…ジェシは、[その時]が近づいていることを、気付いているのかもしれない。

監視兵も、この10日間だけは、ジェシのことを見逃してくれていた。

エリンは、毎朝早くに王獣を連れて訓練をし、夕日が完全に沈んでもまだ小屋に戻ってこないくらい長く仕事をしている。

ジェシが、毎日小屋に来るから、エリンと二人きりで話せる時間は少なく、
ジェシがまだ抜け出さずエリンが王獣舎にいる時間が、唯一の二人の時間だった。

そして今日もまた、王獣舎で話をしている。

お互い、二人で過ごしていなかった日々を話すことが多かった。

もっと、互いをよく知合えるように。


エリンがリランの左翼に手を伸ばして、木の枝がかすったという翼の傷を見ていたとき。

ふと、エリンの傷が目に入った。

手を上に伸ばして、下にさがった衣から覗く、左腕の肘にある傷。

「…その傷……」

最初は何のことを言っているのか分からないようだったが、おれの目線を見て口を開いた。

「ヨハルさんと、賊に襲われたときの傷よ。大丈夫、もう痛くないわ」

「矢が、かすれたあと、か?」

「そう。この耳も一緒にね」

そう言って右手の人差し指で、傷のある耳をトントン、と示した。

「……エリンから、襲われたこと、傷を負ったこと、賊がどのような物だったかしか聞いていない。そのときの話、よく聞かせてくれないか?」

少し黙り、エリンは言った。

「えぇ、いいわよ」
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