獣の奏者エリン


その瞬間
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(速く、速く……!)

イミィルで、トゥルから「山羊飼いが闘蛇を川に流すのはやめてほしいと苦情を言ってきたんですよ」という話を聞いた。

ラーザ騎兵は陽動だと気付いたおれたちは、アマスルを守るため、闘蛇を走らせ、来た道を引き返していた。

夜を徹して闘蛇を走らせても、アマスルまでは最低一日半はかかる。

(真王さまは……)

……これは、予想もできていなかったことで、まさかアマスルが戦場になるとは思っていなかっただろう。

となれば、必ずエリンに王獣を飛ばす準備をさせているはず…。

もし、エリンと王獣が飛んで、<災い>が起きてしまったら……。

どんな<災い>かは分からなくても、人も獣も死に絶えるような<災い>だと聞いている。

王獣が天に舞い、闘蛇が地をおおうとき、いったい何が起こるのか…。

(人も獣も、死に絶える…)


今日は熱帯夜で、とても蒸し暑い。

今の状況と暑さで、頭がよく回らなくても、流れている汗に、冷や汗が混じっていることは分かった。

(エリン……間に合ってくれ!)


新生闘蛇は、とてもすばやい。

少なくとも前の闘蛇よりは早いだろうが、乗っていると、今の闘蛇ですら遅く感じる。

隊長はイミィルに残り、イミィルの民や闘蛇乗りたちに今の状況を伝えたあと、すぐアマスルへ向かうと言っていた。

今はおれが軍の先頭に立ち、アマスルに向かっている。

だが、今はおれの後ろにいる闘蛇乗りたちのことは頭に入らず、アマスルでの状況が気になって仕方がなかった。

徐々に、後ろにいる闘蛇乗りたちと距離ができているとも知らずに。
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