獣の奏者エリン
□変化
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「お母さん、どうしていつも、山リンゴなの?」
ラゴゥの沼の畔に、一本だけ木の葉がとても深緑な木がある。
エリンちゃんが死んだ、と聞かされたあの日からずっと、私は、この木の下に来てお参りをしていた。
そして、今日も。
「前に話したでしょう? ここにいる子の名前は、エリンだって」
「あっエリンは山リンゴって、意味だから?」
「そうよ」
9年前に、チョクとの間にできたラミは、今年で10歳になる。
「ラミと同じくらいの年の女の子だったわ」
「へぇ」
(もし、エリンちゃんとソヨンさんが生きてたら……)
アケ村の様子は、あの日までと変わらずにいれただろう。
男衆は闘蛇の世話。
女衆は家事全般。
でも、あの処刑があった日から、それは少しずつ変化していった。
男たちは毎日毎日闘蛇の世話に怯える。
もし、ソヨンのようなことが起きてしまったら……と、自分の<牙>を今まで以上に入念に世話をしていた。
そして、女たちの中に、ソヨンのように医術に詳しいものなどいない。
村の誰かが病にかかったときは、それはもう女衆全員が、ぎこちない作業で看病していた。
あの家族がいなくなってから、とにかく毎日が忙しかったのを覚えている。
「…帰ろっか。お父さんも待ってるわ」
「うん!」