獣の奏者エリン


髪色
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「髪の毛、けっこう伸びたな」

「えぇ、昔は肩に少しかかるくらいの長さだったのにね」


イアルが朝エリンの髪を結うのは、毎日の日課となりつつある。

思えば昔のこの会話がきっかけでこうなったのかもしれない。

――髪の毛、伸びてきたから切ろうかしら

――…、伸ばしたりはしないのか?

その後、髪を結うのは上手くできない、というエリンの言葉を聞き、なら自分が、とイアルが言ったのである。


「きつくないか?」

「大丈夫。あなたも結うの上手くなったわね」

少し呆れた声で、イアルが言った。

「おまえがちゃんと結えるようにならないからな」

エリンは少し顔をしかめた。

「しょうがないじゃない。できないんだもの」


この会話も、今まで何度繰り返したことか。

それでも、毎日結ってくれるイアルに、エリンは変わらぬ幸せを感じていた。


「……、でも、本当に綺麗な緑色だな」

「そう?」

「あぁ。どこにいても、すぐエリンだってわかるし」

「なによ、それ」

エリンが笑うと、イアルも微笑んだ。

「よし、できた」

「ありがとう」



(あ…そうだ…)

「――ねぇ」

「なんだ?」

「私がどこに行っても、見つけ出してくれる?」

「どうした? いきなり」

自分でも、変なことを言ってしまい、どう答えていいのか分からなかった。

「ううん、ごめんなさいね。なんでもないわ」

「………」

座っていた椅子から立ち、カザルムへ行く用意をしようとしたとき。

ふいに体の重心が、後ろへ傾いた。

イアルが抱きしめていると分かり、どうしたの? と言おうとすると。


「大丈夫。絶対おまえを見つけてやるから」


耳元で囁かれ、思わず顔が赤くなる。

それと同時に、とても嬉しくなった。

「というか、どこにも行かせない」そう付け加えられ、エリンは心が温かくなるのを感じた。



→あとがき
 

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