2/14。

その日は世界虚空情報統制機構、通称図書館と呼ばれる組織がにわかに活気づく数少ない日の一つだ。
バレンタインデーというイベントがあるから、だけではない。
その日は図書館のある重要人物の誕生日なのだ。
その重要人物とは。

「少・佐ー」
「なんだ、ハザマ大尉」

語尾にハートマークがつきそうなほどテンション高く自分のことを呼ぶハザマにジンは心底嫌そうな顔で書類から顔を上げた。
ハザマは両手いっぱいに大きな紙袋を抱えていて、その中には様々なラッピングが施された箱やら袋やらが詰まっていて。
予想通りの光景に深いため息をつくとジンは再び書類に視線を戻した。

「誕生日おめでとうございます。これ、いろんな人から預かってきた少佐へのプレゼントですよー」
「・・・・・・ありがとう。適当に処分してくれ」
「はい、わかりましたー」
 
元々諜報部に所属しているハザマが特別措置でイカルガの英雄、ジン=キサラギ付きの秘書官となって早数ヶ月。
『優秀な秘書官、要りません?』と、自信満々で志願したとおりハザマの秘書官としての働きぶりは軽薄そうな言動とは裏腹に優秀の一言に尽きた。

「あ、そうそう少佐。一つ忘れてました」
「なんだ・・・・・・っ!?」

しかしその優秀さにカモフラージュされた問題性をジンは失念していた。

「ハッピーバースデー」

ハザマの薄い唇が透けるようなブロンドの前髪越しに触れると同時に書類の上にコンと何かが落ちたような硬い音が小さく響いた。

「ハザマっ・・・・・・!」

一瞬呆気にとられてしまったジンがユキアネサを召喚した時には既にハザマの姿はなく。
残されたのは書類の散らばった執務机の上に転がる小さな小瓶が一つ。

「・・・・・・馬鹿らしい」


『愛しいあの人と夢での逢瀬を』


そんな胡散臭い謳い文句のラベルがついた小瓶を捨てるに捨てきれなかったジンは小さく舌打ちをして執務室を後にした。



(馬鹿らしい、馬鹿馬鹿しい、僕はなんて・・・・・・)




T・愚者と道化師の誕生日。




「大馬鹿だ・・・・・・」








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