リトしま
□守れなかった、その顔を
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不気味なくらいに晴れた空の下。
庭先では、黒い蝶が楽しそうに舞い躍る。
「〜♪」
まるで西洋の貴族のようにひらひらとしたあの衣装は、なんという名前だったか…
一度聞いたにも関わらず忘れてしまったが、その聞き慣れない名称は、どこか浮世離れした彼女によく似合っていたように思う。
ただ、元々が幼く見える容姿だと言うのに、その格好も相俟ってか、こうして機嫌良さげに笑っているとまるで子供のようだ。
けれど、近くで見るとすぐに気付く事になる。その笑顔が、あまりに空虚だという事に。
機嫌が良いのは嘘じゃないのだろう。なのに笑顔が嘘に思えるのは、それがまるで気分に合わせて被せた、面のように色がないから。
「…何がそんなに楽しいんだ?」
それでもそんな風に問い掛けてみる。
少なくとも彼女の機嫌が良いのは事実で、それが純粋に不思議だった。
一度失った刀を取り戻せたのは分かるが、それはそんなに喜ぶような事態だろうか。
しかも、こんな…写しなんか手に入れて。
「え?」
「笑ってるんだ。あんたは今、楽しいんだろう?」
「うん。でも、楽しいって言うのはちょっと違う。いろはは、嬉しいの」
「…。じゃあ、何がそんなに嬉しいんだ?」
「だって、貴方とまた会えたから」
「………」
だから、それの何が嬉しいのかが聞きたい。
昨晩呼び覚まされた時から思っていたが、この主とはどうにも会話が噛み合わない事が多い。
何かを問い掛けても、少しずれた答えを返される。
質問の意味を掴めてないのか、それともわざとはぐらかしているのか。
どちらなのかは分からないが、例えどちらにせよ、この主が世間離れしているのは確かだ。
まあ…それは、言うまでもない事かもしれないが。
「いろはは今、とっても幸せ。もう会えないと思った刀に、もう一度出会えたんだから」
「…分からないな。俺みたいな写しを手に入れたところで、あんたの得なるとも思えないが」
「損得じゃないの。いろはは、貴方に会えた事柄が嬉しい。貴方がよかった。貴方じゃなきゃ駄目だった」
「………。益々、分からない。何度も言うが、俺は写しだぞ。そこまで執着する程の価値は…――」
言いかけて、少し思い留まる。
以前の自分と彼女がどんな関係を築いていたのかも分からないまま、一方的に価値がないと言うのは、何か違う気がした。
自分に、この感情の乏しそうな少女の執着が向けらているのは甚だ疑問だが、それでも彼女の執着は本物だ。
それを否定する権利は、俺にはない。