リトしま
□刀剣川沿い冒険譚
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この時代に呼び出されてひと月弱。
主不在の本丸というのも、最近はすっかり慣れてきた。
なんでもあの主は体が丈夫じゃないらしく、一週間に一度は病院に通わなければいけないそうだ。
本丸に他に戦力が増える気配はないし、そういう時は必ず一人での留守番になる。
今も最初も退屈な事に変わりはないが…流石に今回で四回目ともなると、過ごし方というのも少しは覚えてきた。それに…
『主が帰って来た時、どうやって驚かそうか』
大体これを思案していれば、あっと言う間に時間は経つ。
「さて、今回はどうしたものか…」
初回の不在時は、特に何もしなかった。一人でどう過ごそうか、そもそも留守番とは何をすべきなのか、それを考えるだけで精一杯だったからだ。
二回目の時は、シンプルに主の部屋に隠れてみた。が、帰って来た主は、部屋の戸を開けながらにこやかに「ただいま鶴丸」と言い放った。…本当に気配に敏い。
三回目は、主が所持する本の中にあった、ビックリ箱というものを製作して部屋に置いてみた。…翌日になっても開けてすらもらえなかったのは、地味に傷付いた。
四回目の今回は、どうすればいいだろうか。
隠れても気付かれる、箱は無視される、となれば、一体何なら意表を突けるのか…もっと分かりやすく、視覚に訴えるのがいいのか。
例えば、部屋中を花で埋め尽くすとか。
「いやだが、そもそも花なんかどこに…庭に生えてるのを引っこ抜いたら流石に怒るか…」
でも怒るならそれはそれで見てみたい、なんて思いながら、とりあえず主の自室を訪れる。
…と、戸を開けてすぐ、机の上に見慣れない物体が置いてあるのに気が付いた。
これは…携帯端末?とか言ったか。
主がこれで誰か…恐らく医者と話しているのを、何度か見た事がある。便利な物があるものだ。
忘れて行ったのか、置いていったのか、よくわからないが…
……。そうだ。
「これを使って、何か出来ないだろうか。驚くような物を仕込めればいいんだが…」
何はともあれ、使い方が分からないと話にならないな、とその物体を手に取ってみる。
――と。その瞬間に鳴り響いた電子音のような物に、不覚にも心底驚いた。
「…!?」
ピピピ、と一定間隔で鳴る音は、間違いなく手の中の物体から発せられている。
これは…電話とかいうのが掛かって来たのだろうか。だとしたら、どうすればいいのだろうか。
一人でオロオロしながら、とりあえずその音に止まって欲しくて、画面に触れてみる。
…すると思惑通り、ピタリと音が止んだ。いや、止んだ…のか?
むしろ、出てしまったような…画面上には"通話中"と書いてあるような…
「………」
恐る恐る、主がやっているのを真似て、それを耳元へと持っていく。
本当にこんな物で会話が出来るのか、どうにも信じられないが…もし出来るなら、それを体験してみたい、という気持ちもあった。
まあ今に至っては、それどころでもないが。