□三竦みとは少し違う
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視界の中がゆるりと靄っている。
頭上に蔓延する煙草の煙を、銀時は店の品書きでパタパタと追い払う。

その前で土方と沖田が攻防戦を繰り広げ、漸く土方の手中にその携帯電話は戻った。

そして丁度良い具合に、三人が注文した料理がテーブルへと運ばれて来た。
年若い女性の店員二人がテーブルの上にその品々を並べていく。

「お待たせ致しましたー、国産牛ロースステーキセットにクリームあんみつとロールケーキ、
・・・あとお客様の特注にてカツ丼土方スペシャルになります〜・・・おぇぇっ。
ご注文は以上で宜しいでしょうか?
それではごゆっくりとお召しあがり下さいませー」

接客スマイルで微笑みながらぺこりとお辞儀をし、店員達は厨房へと下がって行った。

「土方さん、犬の餌来やしたぜ」

最早薄黄色しか見えていないカツ丼を、沖田は土方の前へとずらした。

「いや沖田くんさぁ、それ犬の糞じゃね?」

銀時はその丼を視界に入れるのさえ嫌そうに、嘔吐の真似をして顔をしかめてみせた。

「いや何かおかしーだろ、
今の店員『おぇっ』つったよな、明らかに俺のにだけ『おぇっ』つったよな、
スゲー感じ悪ィなこの店」

「アレ?、犬の遠吠えがオエオエするんですけどー。アレ?マジおかしいわ俺の耳。幻聴?」

「まあまあ土方さん仕方ねーでさ、あの姉ちゃん達ァ人間なんで犬と違いまさ。
さっ旦那食いやしょーぜ、いただきやーす」

「ああっ?!んだと、テメーらも叩っ斬ってやる!」

不服そうな土方を余所に、沖田はフォークとナイフを、銀時は匙を握り早速目の前に並べられた旨そうな料理(&甘味)へと手を伸ばした。

どうにも釈然としない土方だったが、毎日食べ続けても到底飽きることのないそのトグロを巻く至福の酸味。
そのたっぷりかけられたマヨネーズを前にし、箸を取ると丼を掴み勢い良く腹の中へと掻っ込んだ。

一様に腹が減っていたようで、三人共暫く黙って昼飯を食した。
丼を三分の二程食べたところで、漸く土方の腹の虫が治まってきた。
そしてふとテーブルを挟んで向かいに座る男に目を遣った。

その銀髪の巫山戯た男は、いい歳をして飯も食わずにロールケーキを平らげ、更にいかにも甘ったるそうなクリームあんみつをもほぼ平らげていた。
気怠げにテーブルに頬杖を付き、残り少なくなったあんみつのホイップクリームを匙で掬う。
そして先程からずっと、目前に座る沖田の顔から視線を離さないでいた。

一方沖田はというと二人より幾分食べるのが遅く、飯を食うのにまだ夢中な様子である。
銀髪男の視線は一向にお構い無しで肉を頬張っている。
土方は沖田に対するその不躾な視線に気が付いてから、どうにも苛立ちを感じ始めていた。

「んー・・・。
ところで沖田くんさぁー」

甘味の硝子容器の中で、カチャカチャと匙を掻き混ぜ、銀時がおもむろに言葉を発した。

「最近いーことあった?」

「藪から棒に何ですかい旦那?
特にありやせんけど土方が死んでくれたらいーのにな」

沖田は付け合せのフライドポテトをフォークに突き刺し、ぱくりと口に入れた。
沖田の皿上のステーキは綺麗に少しづつ片付けられていた。

「おい総悟ー、その終わりの部分いらねーだろ。丸聞こえだ」

土方の突っ込みは無視して、銀時は匙を舐めつつ沖田の顔を更にまじまじと見詰めた。
土方は丼を手にし、ちらりと銀時を睨んだ。

「沖田くんさぁー、最近痩せたんじゃね?」

「マジですかい、痩せたですかねぃ?
俺ァ体重なんざ測んねーからよく分かんねーや。
あ、隣の奴ぁ最近腹出てきやしたよ。
マヨの採り過ぎでポニョ方でさ」

「誰がポニョだよ!」

沖田も土方の発言は素通りさせて、フライドポテトをまた一つ頬張った。
そんな沖田を銀時は、「うーん・・・・」とまじまじと見詰めると首を捻った。

「そーだなー・・・・痩せたっつーかよぉ、こうー、
顎の辺りがきゅっと尖って来て」

「てかテメー等人の話聞けやオイ」

土方の言葉はてんで無視で、銀時は更に沖田の顔をじっくりと眺めた。
見詰められた沖田は不思議そうな顔をし、料理を口へ運ぶ。
その二人の様子を見て、土方は残りの飯を口の中に勢い良く放り込んだ。

「あ、沖田くんさぁー、女でも出来たんじゃね?」

「ぶほっっっ!!」

土方は口に放り込んだカツ丼土方スペシャルを、思い切り吹き出していた。
机の上には飯粒と薄黄色を帯びたマヨネーズが飛酸・・・でなくて飛散する。
それを横目で見た沖田は、さも嫌そうに云った。

「土方さん何ですかィ、汚ねー」

「沖田くんさぁー、イロが出来ると誰でも顔付き変わってくるもんだ。
これホント、銀さんは騙せねーよ」

「へーえ・・・・、そんなもんですかねィ」

沖田は残り少なくなった和牛ステーキにナイフできゅっきゅと切り込みを入れ、フォークに突き刺してその小振りの口に放り込む。

そしてもぐもぐと肉を頬張りながら、自分の顎辺りをぺちぺちと触った。
その殆ど髭も生えていないような沖田の口許を見て銀時は溜息を吐いた。

「だーーーっ!!ったくマセ餓鬼め、イロ発言は否定しねーのかよ。
だからヤなんだよ二枚目キャラはよ・・・。
どーせ俺ァモテねーよ。
あーそーだな、あとなんつーか、
沖田くん、お姉さんにも似て来たよねー」

ステーキを口いっぱいに頬張らせる沖田は目前に座る銀時を見遣り、もごもごとくぐもった声を出した。

「ダンナ、そりゃ姉弟ですから」

「ふーん・・・・・」

そこで土方はこの席に腰を下ろしてから、初めてちろりと銀時の視線を感じた。

傍らに置いてあるコップから水を飲むと、土方はテーブルの上に飛び散らせたマヨネーズやらをお絞りでさっと拭き取った。
そして黙って残りの丼を再び胃の中へと掻っ込んだ。

 
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