□月が走る
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※少々?えち表現ありますので・・・↓どぞ









汗ばむ身体を横たえ、まだ僅かに乱れる息を整える。

ぼぅと白む月灯りのせいか、薄暗い部屋の中でも視界はきいた。

何も纏わない身体に薄い掛け布団を引き寄せ被り、隣に寝そべる男からくるりと背を向ける。
それを追うように布団の中にその男の手が滑り込み、下腹部辺りを撫でさすった。

その手を片手で制すると、その手は下腹部から尻や胸へと移りさわさわと這い始めた。


「・・・どーした」

耳元でまだ熱の籠もった低い男の声が響く。
その唇が耳元を離れ、うなじをゆっくりと這っていくと、背骨の内側辺りに心地好い快感が走る。
かくんと少しばかり顎が仰け反った。


「こんな日に・・・
こんなことするアンタの気が知れねぇ」

口付けていたうなじから唇が離され、耳の後ろでまた低い声がした。

「・・・部下を斬ったその日に
お前を抱くことがか。

それを云うなら
俺に抱かれるテメェも同じだ」




本日、この男はその手で部下を粛清した。

厳密に云えば、この男の刀が振り下ろされる瞬間、そいつは観念したのか喉を掻っ切って死んだ。

長く見知った筈のその者は、裏の顔を持っていた。
その悪事は到底許せるものではなく、局中法度に則り粛清と相成った。

そいつは三十路近くの年齢で、既に家庭があった。
そいつに餓鬼が出来た際には、屯所内皆で祝ってやった。
そんなささやかな祝宴を開いてから、まだ一年も経っていない。

生まれたての小さく真っ赤な赤ん坊の写真を皆に見せては、自分に似ていると、心底嬉しそうに親馬鹿ぶりを発揮していた。
なのに何がそうさせたのか、裏では真選組の名を利用し悪事に手を染めていた。



「あれは、アンタが斬ったわけじゃねぇ。
あいつが勝手に死んだんでさ」


「ああ、

斬り損なった」

そう、低い言葉が返された。


「別にあいつを憐れんでるんじゃありやせんぜ、」

男はそれまでゆっくりと自分の身体に這わせていたその指を止めて、次の言葉を遮る様に云った。

「あの乳呑み児抱えた女が哀れか」


「・・・・・・」


遺体を引き取りに来た女の背には、まだ小さい赤ん坊が括られていた。
その女の事情聴取の結果、夫の悪事は知らぬことと判断され、そのまま遺体と共に帰された。

その女は乳呑み児を背に、酷くやつれ憔悴しきっていた。
ああいう場面は不逞浪士を斬った後、幾度となく見てはいるが、何度見てもいいものではない。

それも身内の縁者となると尚更だ。



「殉職にはさせねーよ」

冷淡な声で耳元にそう告げられる。
一瞬、あの母子の姿が瞼の裏をよぎった。


「・・・・・・ハハ、アンタ鬼でさ」


途端、くるまっていた布団を剥がされ、ぐるりと仰向けにされて上に圧し掛かられた。
腹から下に男の重みがずしりとかかる。
そして急に肩先をがぶりと強く噛まれ、鋭い痛みが走った。

「・・・痛っ・・・・・!」

その思いがけない痛みの先から、出血したような感触に指を伸ばし触れようとすると、両手を掴まれ布団へぐいと押さえ付けられた。

肩先のひりひりする痛みに睨み返す。


「何苛ついてやがんで、」


男は狂犬じみた目付きでこちらを見下ろして、口元だけを上げ嗤った。


「上等じゃねーか、

鬼で結構」


互いにギラついた視線を交わす。
覆い被さる男の目を、真っ直ぐに睨み据えてやる。


「・・・土方さん、

アンタが斬らねーなら、
俺が仕留めてやしたぜ」


「そうかよ」

にやりと嗤ったその目が近づき、視界を暗闇へと遮った。



この男はきっと、この件を公に知らしめ自らも罰を受ける筈だ。

そのことを見抜けなかったこの男自身が、憤りを感じていることも解っている。

そして残されたあの母子にも、何らかの形で陰から手を差し延べるのだろう。


自分の知らないところで・・・。






月が走る夜。


本気でこの男に喰われてしまうのではないかと思う程、
激しく抱かれた。









17MAY'10UP


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