□雨に統べる
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※軽め?のえろ表現があります。ドライ風味になっております・・・↓どぞ。










雨が降ってきたからと、
ただそれだけの理由でそこに入り込んだ。

パトカーの中に居れば雨に濡れることもないのだが、ああ確かにこんなぐずついた空の下に居ると、思考も陰鬱なものになってしまうのかも知れない。

街外れの鬱蒼とした緑の中、隠れるようにひっそりとあるその宿。
お世辞にも上品とは云えないその外観。
連れ込みに来るのはもう何度めなのか忘れた。
誘うのはいつも向こうから。
前回は斬り込みに入った夜、隊服に染み付いた返り血の臭いの中何度か抱かれた。
あれからそんなに日も経っていない。

こういう場所へ来るのは、決まって行動を共にする勤務日だ。
その時にこの男の中で一体どういう心理が働くのか、未だ解らぬままなのだが、勤務中にふらりとそんなところへ寄る。

そういう時は必ず男が車のハンドルを握っていて、誘うといってもこちらに特に了承を得るわけでも無く、自分はそれに対して肯定も否定もせずにいた。
嫌悪感を常に抱いてはいるものの、ただその男のことは全て見ておきたいという妙な好奇心の様なものがあることも確かだ。


無人の受付を通り抜け、決まっていつも殺風景な置行灯が一つある仄暗い和室に入る。
その方がお互い顔が見え難くていいのかもしれない。
そいつときたら履物を脱ぐと刀だけは丁寧に壁に立て掛けて、シャワーもろくに浴びさせもせず二つぴたりと合わせて敷かれた寝床へと雪崩れ込む。

当たり前の様にその薄い布団の上に転がされると、シーツだけは一応清潔さを感じる匂いがしほっとした。
そんな思いも束の間、上に圧し掛かる男の手が伸びてきて首元の白いスカーフをするりと引き抜くと、ああ始まった、と目を閉じた。


暗転の中でその手が隊服のボタンを外し、ベストやシャツの上から身体中をまさぐり這い始めるのを抵抗もせずに受け止める。
身体とは不思議なもので、同性に触れられ、ましてや嫌悪する相手に嬲られる様に肌をなぞられているというのに、やんわりと身体の芯が火照っていくのが自分でも分かった。

いやこれはこの先に与えられる感覚の波を既に知ってしまっているからであって、無意識にこの身体はそんな反応を起こしてしまうのかも知れない。
それもこれも好むと好まざるとに関わらず、この男から全て教え込まれたことだ。

肌蹴たシャツの間から胸の突起を何度もじゅるじゅると口に含み、布越しに火照る下肢をなぞっていた手が止まるとカチャカチャとベルトを外す音がした。
一度に秘部を露わにされ、残っていたシャツも剥ぎ取られる。
仄暗い行灯の光の下、一糸纏わぬ姿をその男の前に晒した。

ここで漸く目蓋を開けると、決まって真上から見下ろす男と目が合わさる。
薄い布団の上に横たわる四肢を、まるで身体の隅々まで観察でもするかのようにねちっこい目付きで見回すと、男は自分の隊服を忙しなく脱ぎながら云った。

「お前、遊びはしねーのか」

男がたまに遊里に通っていることは知っている。
そこで抱いた女だか知らないが、この男の身体にたまに付けられている鬱血した痣。
花街で女を揚げたことはないが、遊女の癖に客に痕跡をつけるなぞ、そんな女はいただけない。

この男は花街でもその外ヅラを利用してさぞ浮名を流しているのだろう。
まさかそんな男がこんなシケた連れ込みで、毎度部下の野郎とセックスを愉しんでいるとは、女共も思いもよらない筈だ。

「・・・しやすぜ。
アンタほど盛ってはねーですけど」

その答えに返事は無く、その男は自分よりも逞しい肉体を晒すと再び行為は続行された。
ご丁寧に潤滑に効きそうなモノをたっぷりと使い、充分に馴らされてから足を高く掲げ上げられると蛙のような姿態で男を受け容れる。

ずぶりずぶりと進入してくる異物に毎回無意識に逃げ腰になり、その度に逃げ場を封じ込めるように押さえ込まれ視界が水滴の膜と男でいっぱいになる。
徐々に揺さぶられシーツが激しく波紋を作る上で、互いの荒い息遣いが次第に混ざり合っていく。

いつも思うが自分を見下ろす男は、こんな時は一層獣じみた顔をしていた。
行為を覚え立ての頃はそんなことを感じる余裕すら無かったのだが、こうも頻繁に関係が続くとこの男の無駄に整った筋肉の張り具合や、その息遣い、目付き、髪、声、匂い、全てをも知ってしまったかのような錯覚に陥る。
人がこんな表情をするものだということもこの行為で初めて知った。
そしてその表情こそが自分を優越感に浸らせる。

この男は普段は鬼だと恐れられのさばっているくせに、男である自分に欲情しているのだ。
この行為の意味なんぞは知りたくも無かったが、もう何度身体を繋げたのかもはっきりと思い出せない程、眼前の男はこの身体を抱いていた。

「・・・何見てんでさ」

「見てんのはテメーだろ」

揺さぶられる身体で息を整えようとすると、前髪をぐしゃりと掴み上げられぐいと鋭い双眸が近付きねっとりと口を吸われた。
無理な体勢で舌を思い切り入れられて口内を弄られる。
息継ぎが追い付かずに呼吸が上がり、口の端からどちらのものとも分からない唾液がつうと垂れていくのを感じた。
ハァハァと酸素を肺へ送り込もうと肩が大きく揺れる。

屈服される雄の表情をひとつも残さず見てやろうという獣の目を間近に睨み返すと、その口はやっと開放された。
その視線を躱すように顔を横に背け荒い息を整えるが、息付く暇も無く首筋から耳朶にかけてその舌が生き物のようにべろりと這っていった。

「オメェ、割れ目に興味はねーのかよ」

「、土方さん、それは俺の台詞でさ」

「お前が女遊びしたっつー知らせは入ってねーんだがな」

「・・・アンタ、俺を張らせてやがんで?」

「さーな」

「花街とは限りやせんぜ。
女とも限らねー。
それに、俺はアンタのモンになったつもりもねーですぜ」

べちゃべちゃと耳裏辺りを嘗め回していた男の口が止まったかと思うと、耳許でくつりと嗤う声がした。
そしてこの男は火照る芯に手を伸ばしそれをゆっくりと上下に扱き始め、いまだ繋がったままの四肢を総動させ激しく身体を攻め立てた。
部屋には行灯のぼぅとした朧げな薄明かりと卑猥な連続音、そして自分の口から発する悲鳴のような喘ぎ声。


「安心しろ総悟、俺も願い下げだ。
ただ、テメェの見てくれだけは上物だ」

嫌悪しか感じられ無い様な言葉を浴びせられても、この心奥に触れるものは何も無い。
異常な程執拗に見詰めるその視線や、一度では終わることのない欲の捌け口。
この男は未だこの身体を手放せずにいる。
一体何時になったら飽きるのか、そう思うとどうにも口の端が自然と吊り上がっていくのを抑えられずにいた。


窓も無い部屋で外の雨を思う。

律動の激しさに淫らな肢体をその目に魅せ付け、名を呼んではその耳に嬌声を響かせた。





27JUN'10UP


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