□四方山噺でもしやしょーか
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たまには明るめに。









天涯孤独の身になったからと、悲観することは無い。

大体がこの世上、一見穏やかな様に見えるが親や身寄りの無い餓鬼などわんさといる。
例えば雨露を凌げる場所があり、何かしら働いておまんまを食えるならそれ以上望むなんざ欲深いってもんだ。

それでもどーにも行き詰まったってんなら、近くの橋か河原に草履を揃えて楽におっ死んじまってもいい。
誰一人哀しむことも無いのだから。

――・・・・なーんて、
何かの本で見たような見て無いような。


そんな俺も今では身寄りも無くなった。

在るものが無くなるってのは、ぽっかり穴が開いたみてーにそれは確かに哀しいのだが。
それで同情されるのは甚だ違うんじゃねーかと思っている。
まぁ俺は生憎そんな辛気臭ぇこと考えるタマでも無ぇ訳で。
ただ、不満なことがあるとすればそれは・・・、
それは、
――・・・・何だろ。
―・・・えーと、、、
何だ。
・・・・・・退屈?
そうだ、タイクツほど恐ろしいもんは無ぇ!ってことで。


「土方さァーーん!死んでくだせーーィ!」

遠くに佇む隊服着込んだ男目掛け、バズーカをドゴンとぶっ放した。

「ぅゴホっ、、ゲホっっ!!」

ソイツは黒い煙に真っ黒になった顔を晒して、ゲホゴホしながらまさに渾名の通り鬼の形相。

「てンめー!総悟!!どこ撃ってやがる!!
てか狙うとこ違うだろーがよ!!」

怒り爆発な面をして持ち場を離れこちらに向かって猛烈に突っ走って来る男に、もう一度バズーカを構えると『また撃つのか!?撃つの!?』と立ち止まり目を白黒させている。

というわけで・・・、
俺が俺をおっ死にさせねーように、今日もアイツを肴にして退屈凌ぎに精を出す。
ほんと、いつ見ても飽きないその表情に俺は満足してもう一発ドゴンと、今度は敵のアジトへお見舞いした。



*-*-*-*-*-*

「・・・・お前さ、そんなに俺を死なせてーのかよ」

「ええっっ!?そんなこたァー!当たり前でさァ!」

何だか勢い込んで大きく出ちまった言葉と声にがくりと項垂れるソイツの肩を、「まあま、落ち込みなさんな」とぽんぽんと叩き景気付けてやったらグーでゲンコツが飛んできた。

敵アジトへの襲撃を一番乗りで斬り込んで後始末も済ませ屯所に戻ると、こちらも一番風呂に入り飯をかっ喰らった。
あー今日は真面目に働きすぎたぜィと、本日の締めにアイス片手に特に用も無いのだがソイツの部屋に転がり込む。

もう勤務時間も終わったというのに、まだソイツは隊服のまま胡坐を掛き机に向かってしこしこ書類を書いていた。
口には煙草を銜えていて、脇に置かれた灰皿には既に吸殻が何本かある。
こういう奴のこと、『わーかほりっく』とか云うらしい。
前にジミ男に物知り顔で聞かされた。

ソーダ味の冷たいアイスに齧りつき、ゲンコツされた頭を片手で押さえさわさわと擦る。
近藤さんにもよくゲンコツされるが、たまにコイツからもゲンコツを喰らう時があるので腹が立つ。


「ィてぇや、土方さん暴力反対でさ」

「・・・・・・。
イテーや、ヒジカタさんボーリョクハンタイでさ」

何だか分からないがソイツは机の前で俺の真似をして、妙に可愛く両手で頭を抱える仕種をした。
ってかちょっとその頭悪い云い方は何なんで・・・。
いや何かムカつく。
ってかアンタがするとキモイ。
それに俺ァそんな声の出し方なんざしねぇし、・・・と思うんだがどーなんだ。


「バカかてめーは・・・、怪我は無ーのかよ?」

銜えていた煙草を灰皿に押し付けると、座布団の上でくるりとこちらに身体を向けて胡坐同士で向かい合う。
そして頭を押さえていた手を軽く解かれ、ソイツは俺の浴衣から覗く腕や足に視線を順に移していった。

「あるわけ無ぇや、アンタ俺を誰だと思ってやがんで」

「手のつけらんねークソ餓鬼だ」

一通り切り傷等が無いと判断したのか、掴んでいた俺の腕をぽいと放すとまた机に向き直り書類に目を落とす。

「土方さん、飯食いやした?」

「まだだ」

「アンタ腹減らねーの?」

「減った」

「今日のおかずジャンボ海老フライありやしたぜ。マジ特大」

「・・・・・・」

「あれにマヨ付けたらサイコーですぜ」

「・・・・・・」

「あ、でも限定30食だったからもう無ぇでさ。
こりゃ土方さんの日頃の行いが悪ィからですかねィ」

「・・・・・・」

「ありゃあマジ旨かったー」

半分溶けかけているソーダ味のアイスを下からアーと口を開けて齧り付くと、ソイツは書類から顔を上げもう一度こちらに視線をくれた。

「―・・・・てかオマエ何しに来たんだよ」

「ひつまぶし」

「暇潰しだろが」

全くコイツは仕方ねぇ、とでも云う様に下を向いてくくと鼻で笑いやがる。
あれ、もしかして今日は機嫌が良いんじゃねーのこの人と思ったら、腕を掴まれ引き寄せられるとばくりと残りのアイスを一口で食われた。
手元にはアイスの棒しか残っていない。

「あー!!何しやがんで土方!吐けコノヤロー」

その棒をソイツの顔にぺしっと投げ付けると、俺の折角の食後の楽しみをとばかりに首を両手で絞めて揺らしてやった。

「冷てっ、ってか総悟、苦し・・・ぐるじっ!」

互いに腕を掴み合ってはギャーギャー騒ぐ屯所の夜。



天涯孤独の身になったからと、悲観することは何も無ェ。
特に大した日常でも無いが、退屈とは確かに程遠い気はしないでも無い毎日だ。

アリ・・・・?、
不満と云えばコイツが副長なのは未だ許せねぇんだった・・・。


ちょっと機嫌が良いらしいその顔を間近で覗き込む。
どうせ直ぐにその座は奪ってやるんだから、まあ今日はいいかとすんなりその腕に納まってやった。





28JUL'10UP


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