□黒
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※表現としては軽めのえろ含みます↓









月明かりが障子戸を僅かに鈍く白ませ、夜の帳が下りた頃、廊下から静かに足音がした。

暫く音沙汰が無かったのに、此処の所また頻繁に通って来る様になった黒い影。
その足音は部屋の障子戸の前で止まり、部屋の主に声を掛けることも無く、当り前の様にその戸を静かに開ける。

布団の中で背を向けていても、暗い筈の自室に黒い影がゆらりと伸びるのを感じた。
そこで例え寝た振りをしていたとしても、その黒い影はこの部屋に勝手に入り込んで来る。
そして躊躇いなく布団を剥ぎ、自分の上に覆い被さって来るのだ。
この前などは本当に寝ていたのだが、頭が覚醒しないうちに気が付けば無理矢理犯されていた。

女の体躯の方が抱き心地が良いと云う癖に、もう止めてくれ、と口に出そうな程いつも執拗に自分の身体を弄び貪る。


「・・・んっ・・・ん・・・っ」

毎回努めて声は出さない様にしているが、こんな目隠し程度の障子戸のお蔭で、いつもの事ながら漏れる声を抑える為更に呼吸が乱れた。

そして何よりもこの行為に意味は無い筈。
目的はお互いに快楽を得ようとするもの。
唯それだけだ。

なのに何時からか、それ以外の別のものが不意に襲って来ては、自分の中を捕え始める。
そしてその得体の知れないものを具現化しようとすると、それは何やら空恐ろしいものの様に感じ、
自分を組み敷く男から与えられる快楽に息を詰め意識を集中した。

「・・・・おい、息吐け」

止んだ律動の合間、圧し掛かる男から掛けられる言葉に、揺さぶられていた四肢の筋肉がふっと緩む。
目蓋をゆっくりと開ければ仄暗い部屋の中、日の下で見慣れたいつもの顔とは別の顔がそこにあった。
その藍掛かっているであろう瞳にすぅと呑み込まれそうになり、直ぐ様ぎゅうと目蓋を閉じた。


押し付けるものも何も無い。

だのにいくらか互いに快感を味わった後、何時も自分の胸や腹の上にこの男の肌がぴたりときつく密着し合わされる。
そして最後の激しい律動の末、互いの呼吸がはぁはぁと合わさり荒くなったその時に、耳元で呻くように囁かれるその言葉。

その男が発するその言葉に、
ある種の悦楽と安堵を覚えてしまう自分に慄く。

これは何だ・・・・

腹の底から湧き出てくる言い知れぬもの。

そして情事の後淡々と処理をし、長居せず自室へ戻って行く男の足音を聞きながら、更にその感情が頭をもたげ自身の胸を支配して行く。

それは多分肯定などしたくは無い感情。


『・・・・総悟』

耳元で呻くように囁かれた低く擦れた声。
そしてその後に思い掛けず、優しく吸われた唇。

意識的にすくい上げずにいた感情が形を成す前に、次こそはあの手を制する事が出来る様にと、
閉められた障子戸をぼんやりと見詰め、心の中で願った。





04may'10up


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