□花咲く頃
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既に出来上がってる土沖な感じです・・・↓









御用改めがあった。

前々から真選組が臭いと睨んでいた攘夷浪士の会合場所。
繁華街を少し外れた五階建ての雑居ビル。
攘夷を掲げる奴らの中でも、一部の過激思想を持った者が集り何やら良からぬことを目論んでいるという。

隊の者が連日張り込みし、いよいよきな臭いにおいがし始めた頃合を見計い、人目が薄くなる夜にその捕物は決行された。
毎度のことだが「歯向かう者は斬って捨てる!」と云う傍から、浪士どもが斬りかかってくるわけで。
エレベーターも無い狭い雑居ビルの中を、隊士と浪人どもが入り混じり、刀を捌くにはどうにも勝手が悪かった。

手慣れたバズーカで一発お見舞いしてやりたかったが、最近組に対する苦情が相次いでいるそうで、「暫く滅多な事でバズーカは使うな」と耳にタコが出来るほどきつく云われていた。
普段ならアイツの云う事なぞ聞かないのだが、その日は愛刀のみで斬り込んだ。

そして、いつもと違うことをしたせいか、
しくじった。

敵に太刀を振られた際、後ろへ跳びすさんでかわしたつもりが、狭い部屋の中後ろに居た何者かに背中がどすんと激しく当たり、結果振り下ろされた刃の先を避けきれず、太腿辺りをすぱりとやられた。


「総悟っ!」


背後からの聴き慣れた声。

斬られた右足に僅かに気を取られ、その後返し刀で再度突いてこようとする目の前の浪士に素早く意識を戻すと、次の瞬間その者は首から胸辺りに鮮血を激しく飛ばしながら足元へと倒れこんでいった。
斜め前には同じ隊服を着込んだ、自分より少し上背のある男。

後ろ背にぶつかった筈のその男が瞬時にその浪士を一撃で斬り殺していた。
浪士を仕留めた刀を握りしめたまま、前を見据え肩越しにこちらを窺う。
自分もまだ周りに残る残党を睨み据え、柄を握る手に力を加え間合いを取った。


「チっ!、よけーなこと・・・」

「大丈夫か」

「ウルセー!アンタが邪魔なんでさ!」


邪魔と云われたその男は、その返答に口元を上げ、襲ってくる浪士ども目掛け通常時より更に獰猛に白刃を振りかざした。



捕物を終え、捕縛した者や仏になった者など、いろいろと検分が始まる。
隊服を黒く染めていく足。
壁にもたれ立っていた自分の元へその男がやってきて、ちらりと足元に目をやり、

「先あがれ」

と短く告げ、近くにいた隊士に屯所まで連れ帰るよう指示を出した。
他に傷を負った隊士達と一緒に屯所に戻り手当てを受ける。
思ったよりも深めに斬り込まれた太腿にきつく包帯があてがわれ、痛み止めや化膿止めが入った錠剤を飲まされた。


自室に戻り隊服を脱ぎ単衣を纏う。
興奮状態から解放され、ようやく傷の痛みと熱がじんじんと下肢を襲い始めた。

脱いだ隊服をハンガーに掛けるのも億劫で、押入れから布団をどさりと落としてその上に横たわると、自然と目蓋が落ちた。



*-*-*-*-*-*



翌朝、目を開けると黒の着流しを羽織った男が、腕組みをし胡坐をかいて布団の傍に座っていた。

薬のせいか随分ぐっすりと眠りについていたようだ。
障子戸を白ませる光から察すると、外は幾分か日が昇っていた。
捕物があっても隊士達は翌日には通常通りの隊務が待っている。
大方の者は警邏などへ出払った後のようであった。

部屋を見渡すと、昨晩脱ぎっぱなしのままでおいた隊服がない。
シャツもスカーフも無かったので、この男がクリーニングに出させたのだろう。
枕元には盆の中に水差しと湯飲み。あとは錠剤や軟膏、さらの包帯が置いてあった。


「・・・起きたか」


腕組みをする男がゆっくりと目を開け、その藍がかった瞳の先がこちらに向けられた。


「・・・土方さん、仕事は?」


寝起きの自分の声は少し掠れていた。


「今日は元々非番だ」


太腿に鈍い痛みが走る。
静かな空間。
自室に鎮座する男を見据えて、普段では決して口に出さない筈の言葉が口をついて出てきた。


「・・・・・・俺が死んだら
アンタどーしやす」


互いの瞳が合って、暫くの沈黙が続いた。


「命日に、
墓参りくらいには行ってやるぜ」


目の前に座る男から、存外に低く返された言葉。
藍がかった瞳が真っ直ぐにこちらを見詰めていた。


「・・・・・・どーだか、
アンタどーせすぐ女ひっかけてよろしくやるんでしょーけどね」

「やらねーよ。
女やもめにゃ花が咲くって云うがよ、おとこやもめにゃ蛆がわくっつーだろが」

「・・・・・・何ですかいそれ。
てか、男やもめってのは誰のことで?」

「総悟、傷見せてみろ」


腕組みを解き、胡坐をかいたままの姿勢で布団の端にぐいと身を寄せてくる。


「アンタ人の話聞ーてんのかよ。
やもめってのは使い方おかしーんじゃねーですかィ」


いつになく噛み付く自分。
足元の布団を右側だけぱさりと剥がされ、素肌に空気が触れた。
足先で寝乱れていた単衣も太腿の付け根まで肌蹴られる。
その患部にその藍がかった男の視線が移っていくと、少しばかりぞくりとした。


「いんや。違ってねーだろ」


包帯の上から傷口辺りをさわりと撫でられた。


「俺はお前とは、そういう仲のつもりなんだがな」


唐突に、だが自然と紡がれたその言葉に、一瞬思考が止まる。


「――・・・
全く・・・、
どんな顔して云うんだか」


聴こえないほどの小ささでぽつりとそう呟くと、自分を失ったらどうするなどと、訊いてしまったことがどうも気恥ずかしく、鼻先まで布団を軽く引っ張り上げた。

足に置かれた無骨な手は、暫くいたわるようにその傷の周りを優しく撫でていた。


「少し血が滲んでやがる。
包帯変えるぞ」


そのままされるがままに身を任す。
まだじんと熱と痛みを持つ患部に、効き目があるという切り傷用の軟膏を丁寧に塗られ包帯を巻かれる。
器用に太腿の下をくぐらせ、くるくると巻き付けられていく包帯の感触。
軽く両端を結んだ後、また優しく撫でられた。


「悪かったな、俺のせいだ」

「・・・ほんとでィ。
どこに突っ立ってやがるんで、
次邪魔したらぶっコロス」


布団で半分顔を隠し、天井を見詰めて返す言葉。
いつもこの男がところ構わず吸っている煙草の臭いも何もしない自室。

痛みの中にある心地よい感触の中、寝ずに傍に居てくれたであろう男を思って、暫くは大人しくしてやるかとまた目を閉じた。






09may'10up

 

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