短
□dark red−蘇芳−
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※サイト作るにあたり一番に浮かんだお話。えち表現少し含まれます。
人を斬った捕物劇の後、足元にはいくつかの死体が派手に転がっていた。
まだ血を滴らせていた刀をびゅっと振り、鞘へ収める。
隊から一番乗りの一陣がやって来て、まだ温かいだろう転がった四肢を二人がかりで手早く抱えては、次々と外へ運び出す。
二階の窓から外を見下ろせば、シートで周りを覆った中にむしろを広げ、仏を綺麗に並べ寝かせる隊士達が見えた。
ロープで立ち入り禁止にはしてあるが、見物人がたかってきて携帯で店や警察車両など写真を撮り始めていた。
検分や何やらと、
「こりゃあ明け方までかかるか・・・」
と独り言ちる。
一服しようと懐を探った矢先「先にあがれ」と近藤さんに言われ、取り出した煙草を仕舞い込んだ。
副長自ら連日の張り込みをし、しょっ引く手筈など度重なる打合せで暫くまともに寝ていない。
部下の身体を気遣う上司に「お先」と一言告げ、下の階へと足を向けた。
次々に隊士達がやってきて、
「お疲れ様です!」
と立ち止まり一礼してはいそいそと現場へ向かって行く。
今晩の捕物は幹部近くの数名しか知らされておらず、少数精鋭でのみ敵陣へ乗り込んだ。
色街の女共を囲う店にも関わらず、店内に女の姿は一人も見えやしない。
代わりに張り込みでは分からなかった大層な数の過激攘夷浪士共と、刀や飛び道具などの武器を使った抵抗にも閉口した。
元々素直にしょっ引かれる連中でもない為、公務執行妨害で途端真剣の出番になってしまう。
「土方さん、もう帰るんで?」
振り返ると、亜麻色の髪をした部下に皮肉めいた言葉を投げ付けられた。
その部下はいつもの捕物時よりも、今夜は幾分目付きが険しくなっている。
一階の広間で大量の浪士共と斬り合っていたらしく、コイツには珍しく黒い隊服に返り血がべとりと跳ねて黒い染みになっていた。
その派手な染みに一瞥をくれて、
「悪りぃが先帰るぜ」
と店外へと向かった。
空いていたパトカーに乗り込みエンジンをかける。
すると助手席のドアがバンと開き総悟が乗り込んできた。
「切り込み隊はお開きでさァ」
抑揚の無い声でそう云うと、すぐさまシートをガクンと倒し、いつもの赤いアイマスクを引っ掛け腕を組み深く座席に沈まった。
アクセルを踏み込み、のろのろと車を発進させる。
少しだけ窓を開け、煙草を取り出し火を点けた。
深く肺に吸い込んではふうと紫煙を吐き出した。
「気ィ抜いたか」
パトカーの赤い警光灯は点けないまま一般道を走る。
先程の惨劇が嘘の様に、こんな夜中でも色街は煌々と賑わっていた。
返り血のことを暗に言ったつもりだったが、シートに沈んだ総悟から返事は無かった。
互いに人を斬った後は、決まって口数が減る。
異様に研ぎ澄まされた神経のまま、肉や骨を斬った感触と、尋常でない昂揚感が平常へと戻っていくのをただゆっくり待つだけだ。
暫く黙って車を走らせ、繁華街を抜け屯所に向かう。
途中、信号を屯所とは反対の方向へと曲がった。
「・・・・どこ行くんですかぃ?」
シートに倒れ込みアイマスクをつけ腕組みしたままの総悟が、低く言葉を漏らした。
その問いには答えず暫く車を走らせる。
そしてある建物の地下駐車場へと入り、エンジンを切った。
「・・・・パトで入るたぁ、ふてぇお人だ」
蘇芳の瞳は隠したままで、嘲笑を滲ませた口許を見て、
「やりたくなけりゃ他あたるぜ。
こっちは商売女でも呼べばいい」
と一人助手席に残し、連れ込み宿の受付へと足を進めた。
そう間を置かずして、バンっと派手に車から降りる音と、ピッとキーロックをする音が地下のコンクリートに響いた。
無言で部屋に入ると噛み付くように互いの口を奪い合う。
甘い言葉など何も無く、ただ貪る様に己の身体と相手の身体を繋げる。
互いが互いの息遣いに合わせて、腕を絡ませ腰を揺らした。
返り血を浴びた隊服も、白いスカーフも全て脱ぎ散らかし、薄い灯りの下幾度も折り重なる。
何度目かの行為の後、再び下肢に手を伸ばす。
ハァハァと身体の下で目を閉じ、荒く息を吐き出していた総悟が、薄っすらと目蓋を開けて嘲るような笑みでこちらを見上げた。
不敵に見上げる蘇芳の瞳。
「・・・・ハッ、まだ・・・・、足りねぇんですかぃ」
くく、と嗤う掠れた声が耳の奥に響いた。
「アンタ、斬りすぎですぜ」
「てめえに云われたかねーな」
そう云い煩いその口を無理矢理塞ぎ、両手を押え付けまた組み敷いた。
揺れる亜麻色の髪と紅い瞳。
一度も甘く啼くことのない息遣い。
目の端に映る二本の刃。
「帰ったら刃こぼれ直さねーとな」と頭の隅で考え、目瞼の裏には肉と骨を断つ瞬間に染まる鮮やかな色彩。
研ぎ澄まされた五感に眩暈がしそうなほど、まだ暫く血の臭いは消えそうにもなかった。
20feb'10up