短
□緑燃ゆる
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ミツバねたです。優しく書きたかったのでギャグ風味↓どぞ
緑燃ゆる
初夏の陽射し
生い茂る草を掻き分けながら
少しだけ勾配のついた道を
草履で蹴り上げ前へと進む
その向こうには
自分を待っている
揺らぐことのない暖かい場所
その情景は昔からずっと
変わらない
*-*-*-*-*-*
「総悟入るぞ」
カタンと襖を開け、部屋の中を見渡す。
当の住人はどこにも見当たらなかった。
いつもだらしなく敷きっぱなしの布団の周りには、菓子やら漫画が散乱している部屋なのだが・・・。
今朝に限っては別人の部屋かの様に綺麗に片付けられていた。
今日は朝からこの部屋の住人と市中見廻りの仕事が入っていた。
壁には隊服がきちんとハンガーに掛けてある。
アイツまたサボりやがる気か、と携帯を取り出したところで廊下の向こうから山崎がやってきた。
「あれ?どうしたんです?
今日は沖田さん非番で居ませんよ」
と云った。
「非番?
今日は俺と見廻りのはずなんだが」
途端、総悟のヤローーとブチ切れそうになる。
「ああ・・・土方さん、聞いてなかったんですか・・・?」
と少しばかりバツが悪そうな顔付きで、山崎に理由を告げられた。
その理由を聞き、
「−−・・・そうか、報告もねえからな」
とだけ答え、全くアイツらしいと思いその場を去った。
『今日は姉上殿の
お墓参りに行っている筈ですよ』
大方、近藤さんには了承を得ているのだろう。
非番の旨を上司である自分にだけ報告が無いってのはいただけないが、それもいつものことと云えばそれまでだ。
彼女が息を引取ってからも、姉との思い出を総悟は普通にふと、自分に話すこともあった。
屯所の中庭を見渡せば、初夏の陽射しの中青々とした木々が勢いよく伸びていた。
懐の中から煙草を取り出し一本銜える。
「・・・仕方ねーな、
見廻り行ってくるか」
基本、市中見廻りは二人一組で動くものだ。
だが最近の攘夷浪士共の動きは少ない。
変わって、専ら盗みや事故などの処理が真選組にも回って来ていた。
市中見廻りも兼ねて予定は朝から詰まっている。
他に空いてる隊士も見当たらず、一人パトカーに乗り込み屯所を出た。
*-*-*-*-*
日が落ちた頃に仕事を終え、屯所に戻り隊士から報告等を受ける。
食堂で飯をかっ喰らい部屋へと戻った。
と、総悟の部屋から灯りが漏れているのに気が付いた。
「おい俺だ。入るぞ」
カタリと襖を開けると、
「土方さーん、
声掛けるのはいいんですがねー、
俺の返事聞いてから入ってくれやせんかねぇー」
畳の上に大の字になり、耳にヘッドホンを付けて天井を見詰める総悟がぶっきら棒に答えた。
「テメぇはなっ!
俺はお前が今日非番ってのは聞いてねーんだがな」
今日の総悟は着物と袴をきちんと着込んでいた。
「あっれー?
云いませんでしたかねェー?
おっかしーなー、マヨの食いすぎでとうとうボケ入っちまったんじゃねーですかィ」
そのかなり巫山戯た物云いにむかっ腹が立ったが、
「今日は姉上の墓参りに行ってきたんでさァー」
天井を見上げたまま続けて吐かれた言葉に、思わず口をつぐんだ。
「・・・・まあいいが、
休む時は俺に報告ぐらいしろ」
「けっ、アンタのそーゆーとこ嫌いでさァ」
間髪入れずつく悪態とは裏腹に、その声音には何の抑揚も無かった。
「邪魔したな」
襖を閉めて去ろうとすると、
「待ってくだせェ」
と総悟は起き上がり、部屋の隅に置いてあった柳行李から何かをがさりと取り出して、胸元に押し付けてきた。
それを受け取ると、見覚えのある菓子袋だった。
「それ食べてくだせェな残さず全部」
早口でそれだけで云い、襖を閉めようとする手を制し、先程から何の音も発していないであろうヘッドホンを総悟の耳から外した。
「お前も食べろ」
と菓子袋をその胸に押し返し、部屋に割り入った。
一瞬総悟は驚いたような表情を見せ、それから口許だけで、ふ、と笑ったように見えた。
「山崎に茶ァ持ってこさせろ」
「アンタ、
辛いものに熱い茶飲もうってんですかぃ?
馬鹿ぢゃねーのか」
「アア?始末書の一つも上手く書けねーやつがほざくな。
俺は茶がいーんだよ」
「馬鹿でぃ、この煎餅には炭酸って決まってまさァ!」
「マヨも持ってこさせろ」
「死ね味覚オンチヤロー、
あーまだたんとありますぜ。
遠慮せず食べなせぇ」
いつものように調子付く空気。
「テメーが食べろ!」
*-*-*-*-*-*
眩しいほどの光の中
生い茂る草を掻き分けながら
その道を前へと進む
その向こうには
揺らぐことのない場所
そこにはもう戻れない
そこにはもう
戻らない
21feb'10