memo

□つき。ほし。
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あったかいお話が書きたくて。
チビ沖武州です↓








つき。
ほし。

両手を伸ばして、掴んでみる。

つき。
ほし。
つき、ほし。

墨汁のような空の上でみんな静かにキラキラ光っていて。


姉上は月みたいだ。

白くって明るくって、やさしい。
そしてとってもキレイだから。
姉上が笑うと、それだけでもう

嬉しくなる。



昨日もその前も、姉上の喉がコンコンコンと鳴って。
息を吸うと喉の奥が痒いのよって云うから、必死になって喉を掻いてあげたのに。
「くすぐったいわ、そうちゃん」ってくすくす笑うだけだった。

いつになっても、『治った』って云ってくれない。



今日は道場から帰ったら、いつもはする夕餉の匂いもしなかった。
何だかおかしーやと思いながら家の戸を開けても、いつも出迎えてくれるやさしい姿も見当たらなくて。
部屋の奥からまたコンコンコンとくぐもった音が聴こえてきた。

何だか嫌な予感がして、草履を脱ぐのももどかしくって、土間に脱ぎ散らかして急いで障子戸をあける。
苦しそうな顔した姉上が布団の中横になっていた。

赤いほっぺが気になって、近寄っておでこを触ってみたらびっくりするほど熱くって思わず手の平を引っ込めた。
「寝ていれば平気よ」なんて姉上は云うけれど、喉もひゅーひゅー音を立てていて。
「そうちゃんごめんなさい、夕飯まだ作ってないの・・・」
辛そうに喋る姉上を置いて、気がついたらまたさっきまで居た道場へと一目散に駆け出していた。

近藤さんが呼んでくれた村の医師って呼ばれてるじーさんが家にやって来て、クスリを置いていったけれど。
ガンヤクとかいう黒くて丸い不味そーな玉のクスリ。

高い金はとるのに、姉上がこれで良くなったことなんて一度もないってこと、ほんとは知ってる。
だから近藤さんのところへ行ったのに。
近藤さんでも、出来ないことはあるみたいで。



縁側に寝っ転がって墨汁みたく黒くなった空を見上げてみる。

「ヤブ、やぶ、ヤブジジー!」

文句を云ってもどうしようもないことも知ってる。

効き目があるのか疑わしいクスリを飲んだ姉上は、赤い顔をしていたけれど。
そのうち寝付いて、その頃にはもう外は真っ暗になっていた。
それでも白く輝くまるい月ときらきら光ってる星はたくさん出ていて、夜なのにやたらと明るいそらが広がってた。


つき。
ほし。

つき。
ほし。


明日になったらまた姉上が笑ってくれたらいいんだ。


つき。
ほし。

真っ黒な空の中、こんなにいっぱいあるんだから。
そのカケラのひとつでいいからくれよ。

あんなキレイなもの掴めたら、
姉上の胸も何ごとも無かったように治るような気がしてしかたない。

そんなこと思って何度も何度も掴んでみたけれど。
やっぱりダメだった。


「ちくしょー掴めねぇ」

グー
きゅるる。

姉上が居ないと俺は腹も満たされない。
少しだけ弱気の虫が出てきたみたいで、縁側の上寝っ転がったまま横になるとからだが小さく丸まった。


「・・・・くそっ、腹減った」
「これ、食えよ」
「ひえっ!!??」

墨汁みたいな黒い背景の中に同じように何もかも黒をまとったヤツが、知らず庭に突っ立っていた。
その気に喰わねーヤツの声に心底びっくりして、縮こまってた俺のからだが恥ずかしいくらいに飛び上がってしまった。

「なっ!何でお前人んちの庭で突っ立ってんだよ!!勝手に入って来んなよっっ!」
「これ。おめーに食わせろって近藤さんが、」

毎日毎日道場でツラを合わせる相当気に喰わねーそのヤツが、目の前に風呂敷包みを押し出した。
どうにも見た感じ握り飯らしき食いモンが入ってそうなその包みに、腹が減っている俺はどうにも目が吸い寄せられてく。

でもその風呂敷包み持ってるヤツがとにかく、気に喰わねーんだ。


「何でオメーが持ってくんだよ!」
「近藤さん医者呼びに行った後、急用が入ってここには来れねー。オメーが腹空かせてんだろーからって、コレ、頼まれた」
「オメーって云うなよ!センパイって云えよ!」

「――・・・・・チッ」

「!!テメー!舌打ちすんな!聞こえてんだよ!センパイってつけろって云っただろーー!!」
「あーうるせーな沖田先輩。そんな大声出してっと病人が起きちまうぞ」
「うっ!ぅう・・・・・・・」


喉がぐうと鳴って、それと同時に腹もぐぐぐうーーと鳴って。
もうとにかくいーから早くその食いモンよこせとソイツの手から風呂敷包みを奪い取ろうとすると、むかつくことにひょいとかわされた。


「オキタセンパイ。灯りくらい点けたらどーだ」
「いーんだ姉上寝てるから。ってオマエ!敬語使えよ!」
「飯、っつっても握り飯だけだけど腹減ってっだろ。ホラ、食えよ」
「敬語使えよっ!!あ!勝手に縁側座ってんぢゃねーよ!」

俺より後輩のくせに勝手に人んちの庭に入ってきて、勝手に縁側に座って、勝手にその風呂敷包みをソイツは広げ始めた。
それは近藤さんが俺にって持たせたもんだろー!

「ちょっと待てよ、何でオマエがそこ座ってんだよ。その握り飯置いてカエレよ!」
「ウルセー、だから病人が起きるっつってっだろが大声出すな。あー?近藤さんがお前と一緒に握り飯食えっつって俺の分も。てか茶ぁくらい出してくれませんかおきたせんぱい」
「むむむ!!!・・・・・」



結局、ソイツと一緒に握り飯を食った。

近藤さんが持たせてくれた握り飯はまだ温かくて、少しだけ弱気になってた虫も黙ったままもぐもぐ口を動かしていたら、どこかへ飛んでった気がした。
一緒に食ったヤツは気に喰わねーんだけど。

それで、腹がくちくなったとたん、急にまぶたが重くなってしまって。



つき。
ほし。

つき

ほし


墨汁の中浮かぶきれいなもの。
掴んでみたいけれど、今はもう眠くってしょうがない。
あれを掴んだら、いいことあるような気がするのに。



「おい、どこで寝てんだよ、ったく仕方ねーな」


遠くの方で何だか姉上みたいにやさしく響く声がして、頭にぽんぽんと手の感触がしたらとても落ち着いた気持ちになって。


「風邪ひくんじゃねーぞ」


だけど、ただただ眠くってもう、
いつの間にかくるまっていた暖かい布団の中丸くなった。







20101101UP
あまり深いこと考えず散歩中に夜空見ながら浮かんだ文。


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