memo
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片端綴り2の続きです↓どぞ。
「総ちゃん、
好きな子が出来たら自分からちゃんと気持ちを伝えるのよ」
あれはいつのことだったか、姉上と一緒に近くの村の見晴らしの良い丘まで出掛けた時のこと。
自分の両手には、姉上の身体に効くと道場仲間から聞いた生薬に使える薬草でいっぱいだった。
姉上は身体が弱めで、随分前から毎日のように村の医師から与えられる薬を飲んでいた。
「ね、総ちゃん、
好きな子が出来たら自分からちゃんと気持ちを伝えるのよ」
「姉上以外にすきな人なんかいないでさ」
幼少の自分が毎日思うことと云えば、姉のこと、近藤さんのこと、剣術のこと。
それくらいだ。
「あらぁ?近藤さんは?」
「近藤さんもすきです。
でも姉上はいちばん・・・だい、すき・・・」
「ふふ、まあとっても嬉しいわ、
私も総ちゃんが大好きよ」
少し照れ臭くなって俯き加減に声が小さくなってしまった自分の頭を、姉上はしゃがみ込んで『ありがとう』と撫でると優しく笑ってくれた。
「そう、そうやって、好きな人には自分から気持ちを伝えるのよ。
好きって気持ちはね、ちゃあんと伝わるものだから」
「嫌でさ。そんなヤツできねーもの」
「うーん、総ちゃんがも少し大人になって、そんな素敵な人が現れたら。
いっぱいいっぱい大好きになってあげて。
そしてちゃんと言葉で伝えてあげるの」
見晴らしの良い丘から見える小さな村。
薬草まみれで緑色の両手。
目の前には大好きな人の優しい笑顔。
そんな笑顔がただただ嬉しく、それが全てだった幼い自分。
確かに・・・・あの人は自分にとって、姉であり、母であり、女性という生き物の象徴のような存在だった。
そしていつも母が子にするように、真摯に自分に教えを諭していた。
それは息を引き取るまでずっと変わらなかった。
土方さんと関係を持つようになってから随分経つ。
自分から誘ったものの、正直初めは柄にも無く未知の体験への不安めいたものもあり、自分でもおかしいほどぎこちなかったと思う。
どうしてそんな行動を起こしてしまったのかも、もうよく分からない。
大体上司の部屋へ夜分に押しかけ、抱いてくれと云っては目の前で真っ裸になる同性の部下相手に、よくぞ願いを聞き入れてくれたものだ。
そして一度だけでなく、もう何度も自分の『願い』というものはその人によって聞き入れられている。
こんなにすんなりと受け容れてもらえるのならば、何故もっと早く行動を起こさなかったのかと・・・当初はそんなことさえ思った。
ただ一つの、その『言葉』が無い関係には、何らかの痛みが付き物だということも頭の隅では充分分かってはいたけれど。
あの人を好きになったのはいつからだろう。
生まれて初めて知った感情が、届きもせず端から叶わないことへの喪失感。
自分にも心というものがあるのならば、何度も何度も壊れてしまうのではないかとさえ思ったのに、切り裂かれそうな痛みの中抵抗も出来ずに。
結局、前にも後にも自分の足では進めず、ただずっとこの感情の中では流されるまま佇んでいただけに思う。
あの人が好きだ。
どうしようもないくらい好きだと時を経る毎に思い知った。
自分には無い綺麗な黒髪だとか、キツク厳しい目だとかゴツゴツとした手だとか、意外に異性からモテることだとか。
たまに見せる笑顔だとか。
腹が立つほど最後には、優しい人であることだとか。
そんな憎らしいことさえも全て。
そしてあの人が大切に想っているのは、自分のとても大切な人で。
そんなことはもう前から分かってはいたけれども、それは正直、嬉しくもあり哀しくもあった。
どちらの感情にも嘘偽りはなくて、命の危険を晒す職務だとしても、それを押してでも姉上を幸せにして欲しかった。
暫くは怒りと憎しみといろんな汚いものが混ざり合って、醜く歪んだものに支配されて。
最後の最後に、ひとつ、大切なものを失って。
透明な哀しみというものがすとんと、腹の底へと落ちていった。
『ああ良かった姉上。
あなたの想いは通じました。
あなたがきっと思い切って打ち明けただろうその気持ち。
ちゃんとこの人には届いていました』
自分には一生掛かっても伝えることはできないであろうその言葉は。
貴方が灰になって消えてしまった日に、一緒に消えて無くなりました。
「アンタも行けって云うのなら、
俺は行きやすぜ。
花街に。」
覆い被さるその身体の、温かく冷たい重みをいっぱいに感じながら。
上擦る吐息の中で、そんなことをぼんやりと考えていた。
20101114UP
やたら素直なそご視点。まだ続きます。
どーにかがんばってみました→4