memo

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片端綴り3の続きです。
どぞ↓





総悟に近藤さんの言葉を伝えてから数日が経った。
総悟との行為の際、ふと口から出した花街の件だが、実際のところそれは彼の本意では無い。
何故ならばそれを口にした時の彼は、相当酩酊していたからだ。

それなのに、俺は酔った勢いでのそのざれ言をあまりにもはっきりと憶えていた。
そして心臓が一度、大きく跳ねたのも憶えている。
こちらも相当酔っていた筈なのに、掌には厭な汗が滲んでいくのをしっかりと感じていた。



「トシー、所帯を持つってのはいーもんだよなー。
うちに帰れば愛しいカミサンに愛しい子供。仕事にも精が出るってもんだ。
俺とお妙さんの餓鬼はよう、もうお前びっくりするくらいカワイーんだぞう!きゃはっ」

「・・・アンタまだ結婚してねーだろ、つか付き合ってもねーだろ」

「いやいやいやいやトシよお。俺な、悪いけど毎晩見てるもんねー。
愛しいお妙さんとの愛の結晶。これまたもう目ん玉ん中入れても痛くないほど可愛くってよぉ〜」

「いやいやいやいや近藤さん、それアンタの願望が産んだ激しい夢だから」

「えー、そうなの?おかしーなぁー。
俺とお妙さんと餓鬼んちょと、ついでにトシ、お前もかみさんと餓鬼連れているぜ。
ったくお前モテモテだからさー、一体どんな女と夫婦になるかと思ったけど、いいヒトじゃないかよーあの人ー。
名前はなんつったかなー」

「てか知らねーし・・・」

「総悟もちゃーんと出てくんだ。俺の夢ん中。
みんなで揃って歳くってくんだ。餓鬼もどんどん大きくなっていきやがってな。
でもなー・・・、俺ぁ気に掛かることがあってなー・・・・」

「なんだ、アンタちゃんと夢って分かってんじゃねーかよ」

「いねーんだよ、いつも。

総悟の隣にはいつまで経っても、誰ァれもいねーんだよ」



『何でだろうなー。トシぃ。
俺はあいつにこそ、好いた女と一緒になって餓鬼こさえて、温っかいてめーの家族ってもんを持って欲しいんだ。
なートシぃ、お前ぇもそう思わねーか?』



ヒヤリとした。


何故だかその時『気取られている』と思った。
総悟との卑猥な関係を知った上での、忠告にも取れるようなそのざれ言。
そう思ってしまうと酔いというものが一気に醒めていく。

それにひきかえ目の前の上司は目蓋も半分閉じかかり、膝元に鬼嫁の一升瓶を抱えては陽気に赤提灯のような面をしていた。


「―それは・・・・、近藤さんがまだまだアイツのこと餓鬼だと思ってるからじゃねーのか」

「おう、総悟はまだ餓鬼だ。でもなーもう十八だ。
何にでもコーフンしちゃうお年頃だよ。俺が総悟の歳の頃にはもう何見てもモンモン過ぎてすごかったんだよ。
なあトシー、総悟は女と付き合ったことあんのか?てかカノジョ居るのか?」

「んなこた知らねーよ、本人に訊けよ」

「えーー、お前等何だかんだ云ってよく一緒に居るじゃねーかよう」

「―・・・居ねーよ。
あー・・・アイツ花街へは行ったことねー筈だぜ。アンタが隊士達にも連れて行かねーように止めてんだろ」

「あー!?わかったぞトシぃ!もしかしてそれがいけねーんだ。
だからずっと独りなんだよ。
よーし今度総悟にも花街でオンナ揚げさせちゃうもんねー。めくるめく官能世界だもんねー。
武士たるものイロゴトのひとつも知らねーまま死なれちゃもう、悲しくって悲しくって、お父さん涙・・・涙が出ちゃう・・・!ぐすっ、ぐずっ」

「おいおい、何でアンタが泣くんだよ、てか夢の話だろーが」





『志』に惹かれたその人は魂が子供のような人で、馬鹿馬鹿しくも真っ直ぐでいて、そしてやさしい。
父のようなそのやさしさをそのまま伝えることもせず、彎曲してしまったことばを総悟へと淡々と浴びせ掛ける。
多分、それは意図的に。
そしてあられもない格好で、俺の発した言葉に微かに反応するその表情を盗み見た。


あの夜、自室でその白い手を引き寄せてしまってから感じている漠然とした渦のようなもの。
部下であり、同性であり、そして未成年のその身体に欲情し続ける己の性癖。
その真っ直ぐな人の真っ当な夢を途絶えさせているのは、己の存在かもしれないこと。

ただ交わって息を乱して互いに身体だけを差し出し合うような、そんな関係に入ってから。
何も見詰めようとしなかったことへの
それは何らかの働きかけのような気がしてならなかった。







20101127UP
今回も素直に書いた方だと・・・全然終わらないのは何故かしら・・・

がんばってみました。続きです→5


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