memo

□カウントダウン
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もうすぐサヨウナラの季節ですね↓








何にそんな心ざわつかせてんだとか、そんなことはもう置いておいて。




多分このガッコの女どもまぁ半分以上は、やれ手作りだ友チョコだ。
挙げ句自分へのご褒美チョコだと懐具合も糖分も、消費しまくった一大イベントが過ぎ去って十日あまり。
ソワソワと浮き足立っていた空気も店頭のディスプレイも見事に落ち着いて。
あとはこの見慣れた空間から一斉にサヨウナラする日を待つのみに、時間は費やされる。

次のイベントを待つには充分な充電期間。
次から次にやってくる行事は、頭と身体を無理やり前へと向かせる為に世の中ってそりゃもううまく出来ている。



風が立って久しぶりのお天道様を拝んだ学校帰り。
朝とは違いフニフニとチャリンコのペダルこぎながら高くに流れる薄い雲を見て、綺麗っぽい空気を一気にすーうと肺に押し入れる。
あと少しで年度末の月に入るってのに、学ラン越しに突き刺す風の冷たさは全くもってハンパない。

誰かさんに鮮やかすぎると言われた真っ赤なマフラーを頬と口に押し当てて、イヤーマフを教室に置き忘れたことに舌打ちした。

「ぅげ、サイアク、」

冷たさで耳が千切れないことを祈るばかりだ。


俺たちのお次の一大イベントは『ソツギョー』ときてる。


三年間通いつめたこの風景も、あと数日できっと過去のものに早変わりする。
案外気に入っていた通学路だけど、たぶんもう二度と同じように通ることもない。
ついでに大抵一緒に通っていたアノヤローとの日常諸共、あと数日で俺の記憶の下の下の方へと沈んでくハズだ。


「ろくさんさんで」

じゅうにねん

マジでか。
腐れ縁にも程がある。
六の前にもまだ数字が重なってるっていうんだから、お互い腐れても仕方ない。
それにもようやくハサミが入れられるって訳だ。
ジョキンとさっぱり潔く。


何事も残りあと少しってなると、想い返すのは特に不満も見当たらなかったそれなりなガッコー生活で。
天パのセンコーと底抜けに阿保なクラスメイト達と。
あとはどっかのクラスの女に呼び出される度に、無駄に律儀にホイホイ出向くよーな馬鹿男。
昔から律儀の使い方を大幅に履き違えてる。

ここんとこずっとそんな用なんだか、帰り間際はとんと見当たらない。
待ってやるって言葉なんぞは俺の中にはあるわけもなくて。



「総悟、忘れ物」

フニフニこいでた車輪の横でキキと急ブレーキがかけられた。
サドルの上にはうまい具合にその馬鹿ヤローが跨がっていて、ホイとくだんのイヤーマフが飛んできた。


「ぅわ追っかけて来やがった」
「聞こえてんだけど」
「流っ石ぁ、土方さん気が利きやすねィ」
「いやそれオレの机の上に置いてあったんだけど」
「あ?そーだっけ。
いっけね、マヨ臭ついちまう」

サービスでちょっと鼻先でクンクンにおいを嗅いでやる。


「お前ね、何も言わず帰るなよ」
「なんで?」
「何でって、そりゃあお前・・・
もうすぐその、アレだし・・・・・」
「・・・・・・」


アレって何。

続きが出てこないその口に助け舟出すほど甘く出来てない俺は、早速いただいた防寒具でヘタレ野郎なんかシャットアウトだ。
不満げに口を閉じたそのツラ確認したら、ペダルに少し力入れてカシャンと車輪を回らせる。
つられたように隣の輪っかもカシャシャと小気味良く踊り出した。



大通りから外れて、なだらかに続く土手沿いの道を真っ直ぐ真っ直ぐ突き進む。
数にすると気が遠くなるほどの日常の反復で、こんな俺にでも気付いたことは少しだけあって。

ここが風の通り道だとか、見上げると青すぎる空の色だとか、春と夏と秋と冬、そこそこ思い出ってのが一緒になって重なって。
それは隣の馬鹿ヤローと一緒のことが多いんだけど。


長い土手を抜け出て住宅街に入ると、もうすぐに愛しの我が家のお待ちかねだ。



「俺、アパート決まった」
「お、晴れて念願の一人暮らしですかい」
「おう、来月中旬には行く予定だから」
「―――まっ、盛大に追い出してやりまさ」


「じゃあな」

軽くくすりと笑って片手を振りあげて、いつもと変わらない後ろ姿。

ブルーグレーのマフラーが案外よく似合ってるなんて、口が裂けても言わねーけど。

こんなありふれた無数の日々の『ソツギョウ』なんて、それはそれは呆気なく。


あと×回。

別れ際、アンタの「じゃあな」が聴けなくなるまで、

ラストにむけてカウントダウン。




20120220


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