名探偵コナン

□漆黒のアリア
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「赤井さんおはよーございますっ」


「ああ、おはよう」









いつからだったか。
名無しさんの声に安心するようになったのは。


いつからだったか。
この挨拶から一日が始まるようになったのは。









「今日もちゃちゃっと頑張りましょー」


「小さい体でちょこまかとな」


「小さくないですー、赤井さんがムダにおっきくなりすぎです」









いつからだったか。
こんな些細な日常が大切に思えるようになったのは。


明美の存在を、忘れたワケではない。
彼女の仇は必ずとると、あの時誓ったのだ。


罪の意識は消えることなく、しっかり胸に息づいているというのに。






どこかで、名無しさんに救われていた。


名無しさんといるこの日常は、素直にしあわせだと言えるものになっていた。


こんなにも、心安らぐ、なんて。










「何ボーっとしてるんですか?」


「っ、」











気がつけば。
こちらを覗き込む、名無しさんの姿。
と言っても名無しさんは背が低いために下から見上げる感じなのだが。












“しあわせになる権利はあるのよ?秀、”









瞬間、ちらついたのはジョディの言った言葉。


しあわせになる権利は、俺にはない。
それほどのことを、俺はしたのだから。


十分わかっている、はずだった。







罪はしっかりと、俺を蝕んでいる、のに。

















「っ、!」











体が、勝手に動いた。
本当は、望んでいたのかもしれないけれど。










「っ、赤、井、さん、」










しあわせになれるはずがなかった。
しあわせになってはいけなかった。


己のすべきことは仇討ちだけだと。


誓った、はずなのに。















俺は望むまま、名無しさんに口付けていた。





















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