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□熟れた果実に口付けて
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「わ、スレきった大人がいるー」


「あ、?」











自分を見ているようだと思うのは。
失礼かもしれないけど、本当にそう思ったんだ。









「飽きないね、クロスも」


「何しに来た」


「酷いなぁ、同じ穴のムジナ、でしょ?」


「………まぁ、な」











珍しくホームに戻って来たクロス。
それは私も同じだけれど、そこに彼がいるのは何故か慣れなくて。
それでも、そこにいてくれることが嬉しくて、部屋を訪れた。


クロスと離れていたのは、クロスが方舟に入っていた時だけだけど。
それは短いようで、私には途方もなく長く感じた。
(よりにもよってクロスと違う任務を押し付けるなんて本当に質が悪い、)














「お前もスレた人間だろ?」


「そりゃアレンやリナリーに比べたらねー」


「は、その歳で大層なこった」


「一緒にいた人がスレててね、うつっちゃったみたい」











ゆっくりとクロスに近づく。
クロスはただただ、私を見遣るだけだったけど。


ふと浮かんだのはアレンや、リナリーの顔。
私はもう引き返せない。
私はもう、戻れない。
それは十分すぎるほど知っていた。
















「寂しかったか?」


「……その笑顔、なんかむかつくんだけど」


「可愛いとこもまだあったんだな」


「うるさい」











クロスの腕を背にして、ソファーへと座る。
ちゃっかりと抱きしめてくれるのは嬉しいけど、今絶対勝ち誇った笑顔を浮かべてるだろうから振り返るのはやめておこう。










「スレててもスレきってるわけじゃないもーん」


「俺以外の前だとスレきってるがな」


「そんなこと、」




ない、なんて言えなかった。
現に私は、すべてに置いて諦めていたから。


ただ、クロスだけ。
ただ、それだけが私の希望だった。










「スレた女はきらい?純粋なほうがい?」


「あまり可愛いことを言うな」


「可愛くない、真剣なのに」


「お前もまだまだだな、」


「ねぇ、きらい?」













見上げたのは、愛しくて独り占めにしたくて、そして支配したくなる、そんな男。
と同時に降ってきたのは甘美な口付けだった。
























熟れた果実に口付けて
(「リナリーにでもヤキモチ妬いたか?」)
(「っ、知っててやるなんてたちわるい、!」)
(「ホームに来てからお前の澄ました顔しかみてなかったんでな、見たくなったんだよ歪んだ顔が」)
(「へんたい、!」)
(「いちいち可愛いお前が悪いんだよ」)

















(私を可愛いだなんて有り得ない、!)

















(世界はまだ私を見捨てないでいてくれたんだ、)







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