御馳走(戴物)

□闇宗主・百介《渡りの夜》
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ふと、手足が冷えているような感覚に百介は気付く。
蒸し上がるような暑い夏が漸く過ぎ去って、朝晩めっきり涼しくなった所為か…とも思ったのだが。
しかしそれと共に、酷く飢えたような渇望を、躰は感じている。
否、訴えているのである。
「そういえば最近、又市さんも兄上も“渡り”が少ない…」
あぁそういう事か…と百介は、己の躰が示すものに、冷ややかな笑みを向けた。
このまま“冷えていく躰”を放っておいたら、何処まで変化していくのか。
『人』としての部分がどれ程維持出来なくなるのか…と。
百介は他人事のように考える。
「あぁでも小物が煩瑣くなるのは、結構煩わしいですね…」
百介の本来持っている人としての部分が薄れれば、それを補うかのように妖力が高まる。
高まった妖力は鱗粉を撒く蝶にも似て、百介が身動きする度、躰から光りながら溢れ落ちるのである。
小物達はそのお零れを頂く事が出来るのが嬉しいらしい。
「こんなもの…くれてやっても構わないのですがねぇ…」
そんな風に呟く百介の耳に、響く鈴の音。
「又市さん、ですか」

闇に向けての百介の問いに、行者包みの頭が下げられ、急遽渡りの令を云い渡されやして…と返す。

by RU (ノ--)ノ



「嬉しいこと。貴方を一日千秋の思いで待っておりました」
百介の少し拗ねたような寂し気な聲に、又市は行者包みの頭を下げたまま、クッと冷笑を浮かべて。
「又市さん?」
「奴が居ねぇ隙に、旦那とヨロシクやってたンじゃありやせんかぃ」
つまりは、小さな嫉妬の火が灯ったらしいと判じて、百介は柔らかな笑みを浮かべ頭を振った。
「いいえ」
ほら、その証拠に。
差し出された手を握った又市は、うぬっ、と内心で呻く。
冷たい……真冬の川に浸かっていたかのように、百介の体からは温もりが消え失せていたのだ。
「どなたか、“御渡り”を?」
“渡り”とは、宗主に夜伽をすること。
「いいえ。又市さんがいるのに」
他の者では、ましてや小物風情では満足はしない、と。
百介は艶椰と唇を綻ばせ、又市の身に縋り付いた。
「暖めて下さいませ」
蕩ける程に。
百介に求められて、又市は口付けを一つ。
長の不在を詫びるように。
「百介さん……」
存分に。
可愛がって差し上げやすから。
ああ、と。
闇に甘い聲が響き溶けた。

by 礼生 (/--)/

部屋に闇の帳が降り、百介と又市が甘い睦事を交し始めた、その時。
カタリ…と、母屋とを隔てる蔀戸が密やかな音をたてる。
「其所に…誰か居るのですか」
はだけた薄い胸板に、御行姿の男の唇を遊ばさせながら百介が、然して熱の篭らぬ聲で問えば。
「早急に御渡りせよ、との令があってな…」
その為に吾は早馬仕立てて参ったのだが…と。
百介の実兄の聲で応えがあって。
その答えに百介は、にんまり…と、その白い面に妖艶な笑みを浮かべた。
「這入って来て頂けませんか」
手も足もまだこんなに冷えているのですよ…と百介は、着物の合わせめから手を差し入れ、下帯ごと揉みしだきながら不満そうな眼差しを向ける男に、莞爾と笑ってみせる。
勿論、頭の天辺から足の先まで凡て、又市から可愛がられるのは、百介にとっては愉しい事に他ならないが。
しかし兄を交えた二人がかりで、存分に可愛がって貰える方が、もっと愉しくなるだろうとの考えである。

それに蔀戸一枚隔てた其所にまで来ているのに、わざわざ追い返す必要も無い。
「這入って…暖めてくださいな…」
せっかちな御行の指が躰の裡に忍び込んで来たのを感じながら百介は、兄の名を呼んだ。




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2007.11.28 -END-
 

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