御馳走(戴物)

□《戦闘バレンタイン現代版》
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あそこはこの辺りの小学生なら、「知らない」なんて言うヤツは誰一人いない、とても有名な場所だ。
入学したばかりの一年生や二年生、いやビビりなら三年生までが近寄らないような大きな森。
その奥には、俺達が『お化け屋敷』って呼んでいる、古めかしい家が建っている…らしい。聴いた話だけどさ。
まぁ俺がこの眼で見たワケじゃないけど、昔、殺人事件があったような感じの屋敷がソコに在るらしい。
だけどソコにたどり着くには、まず俺達の胸ぐらいの高さもある石垣と、その上に鉄格子を刺したような高い塀を乗り越えて。
次に山の中のように、大きな樹木が沢山生い茂っていて、ぱっと見には家なんか無いように思えるぐらい暗い森の中を進まなくちゃならない。
だけどその森の奥から時々、ギャア〜と気味の悪い鳥の鳴き声が聴こえてくる。
カラスなんかじゃない。カラスなら明け方、俺の家の周りでも煩いくらいだし、第一鳴き声だって違う。
ホント、不気味な聲なんだ。
だから度胸試しで行ったヤツらは、たいていその森に入るか入らないかでリタイアしてしまう。
だけど昨日、隣のクラスのヤツが、その森の奥からヘンな臭いがしたので、探検に行った、という話を聴いたんだ。
ソイツの話だと、ヤブがガサガサと音を立てたかと思うと、いきなりヘンな生き物が木の間から飛び出したから、驚いて逃げて来たって言ってた。
ビクビクしてたから猫と間違えたんじゃないのか、ってそのクラスのヤツと一緒に俺もからかったら。
「人間の頭に足が生えてて、その足で歩いてたんだッ!!」
ボクはちゃんと見たんだッ!!、って先生が来ているのに教室後ろで喚いていたから、席に着け!って怒られてたけど。
その点俺は、席に着けなんて怒られなかった。まぁ早く隣の教室に戻れ!だったけどな。
だけど足の生えた頭が歩いてたいたって?
そんなの有る訳無いじゃん。これが宇宙人が現れた、って言うならアリかも知んないけどさ。
それともそのお化け屋敷は、実は宇宙人の基地だとか、なんか秘密があるのかな?
だとしたら、スッゲー面白いのに。
よぉし、放課後になったら皆を誘って冒険だ!


チェッ、てっちゃんもアツシも行かないってサ。五年生にもなって冒険なんて、ガキみたいな真似はするワケないじゃん、って偉そうな事を言ってた。
シゲなんか「もうすぐ六年生になるのに、タケはガキのまんまだな」なんて言いやがった。
あぁガキで結構。
俺達はまだ小学生なんだゾ。
小学生はバスに乗る時は子供料金だ。
つまり、まだまだ子供って事じゃないか。それなのに澄ました顔で、俺の事をガキだとか言っちやってサ。
きっとそういうツマラナイ事を言うヤツは、大人になった時、もっとツマラナイ事を言うんだろうな。
ヘンだ、みてろよ。
俺一人でこの中を探検して、田代(隣のクラスのヤツ)が何を見間違えたのか確かめてやる!
滑り止めの付いた手袋をリュックから(一旦家に帰って用意した。他にも懐中電灯や、今日のオヤツのチョコレートも非常食として入れてある)出して装着し、それからあの鉄格子の前に立った。


森はヤブだの繁みだので歩き辛いと思ってたけど、中に入ってしまうと、木々は俺の背丈より上まで枝が切ってあったり、下草がきちんと刈り込まれていたり、芝生とか小道みたいなモノもあったりして、思ってたより苦労しなかった。
もし何かの生き物が(隣のヤツが言ってたようなヘンな生き物を含めて)ソコに居たなら、直ぐに判る!、って思えるぐらい綺麗なものだ。
この分じゃあ、大した冒険らしい冒険も出来ないまま、森の中を一周してしまうんじゃないか、って考え始めた頃。
ヘンな臭いがしてきた。
ひどく焦げ臭くて、そのクセ甘ったるいヘンな臭い。
思わず「臭せーッ!!」と言って袖で鼻を押さえたけど、その袖も既にヘンな臭いがしていた。
そういや田代の話の中でも『ヘンな臭いがした』って言ってたっけ。
こんな事ならマスクも用意しとくんだった。イッショウノフカク…あれ、どんな字を書くんだっけ?
それはともかく、この臭いが怪しいと判断をした俺は、何故かリュックの中に入っていた水泳用ゴーグルを眼に当てて(ちょっと眼が楽になった気がする)、怪しい臭いがする方向を目指した。


俺の眼の前に、噂のお化け屋敷があった。
あったけど、皆が言う程お化けの棲み処って感じはしない。
普通俺達が言うお化け屋敷ってのは、一目で誰も住んでいない荒れ果てた空き家か、映画の中に出てきそうな洋館だけど、ここは『典型的な日本家屋(という言い方をするんだって。前にアツシが教えてくれた)』だ。まぁ大きな屋敷ってのは、間違っちゃいないけど。
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