待伏せ(やおい)
□色のお題“山吹”
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七七重八重、花は咲けども………
破れ屋だから、真の闇は無い。
板戸や壁もボロボロの穴開きで、隙間から外の月明かりが入って来るだけで、十分明るい中で。
比較的まともに使えそうな板敷の上で、裸体を晒したまま、くたりと身動きもせず意識を飛した想い人を、又市は苦い笑みで見下ろしていた。
散々犯して嬲った後だけに、呼吸すら薄いようで、僅かに上下する胸板を見なければ『死体』だと思える程だ。
勿論、相手が『好きにして下さいませ』と同衾を許したからこそ、ここまで無体を強いた訳だが。
「少しばかり、責め過ぎたか」
夜目の効く又市には、百介の姿が、暗い中でも見える。
百介を抱き起こし、自分の肩に頭を付けるようにして体を浮かせた。
余程疲れ果てているのか、むずかるような吐息だけを吐き、百介は意識を取り戻すことは無かった。
又市は、脇の下に腕を差し入れ、背を抱くように百介を抱え上げると、力の入らぬ膝が床板から宙に浮かぶ。
百介の全身に散りばめた真紅や薄紫の華は、又市の執着の証。
内腿に伝う白濁した吐精は、乾きもしていない。
背を抱いていた両腕を、尻に下げて、未だ熱を孕み蕩けたままの後孔へと両手の人差し指を揃えて捩じ込む。
「…… ……」
音にも為らぬ吐息が、百介の唇を割って出たが、それだけだ。
又市は、肉壁を掻き分けるようにして指を奥にまで入れると、グッと力を込めて左右に開いた。
通路を作られた百介の後孔から、又市の指に絡み手を濡らし、どばっと精液が床板に音を立てて零れ落ちる。
悲鳴も懇願も無視して、幾度も百介と繋がり、又市が内に注ぎ続けてきた精液だ。
又市は奥まで捩じ込んだ指で、まだ柔らかな百介の肉壁を擦り、中に残留する精液を残さず外に吐き出させる。
ヒクヒク、と腰が揺れるが、僅かに眉根を寄せる位で、精も魂も尽き果てた百介は、反応すら鈍い。
指を菊座から引き抜いた又市は、ぐったりと重い百介の体を抱え直すと、そっと床に仰向けに寝かせて、楽な姿勢を取らせてやった。
此れだけの量を腹に含み続けた百介は、さぞ辛かっただろう。
放尿したかのような床板の濡れ具合を見て、又市は歯を剥き出して笑うしかない。
「男で、良かったでやすねぇ……百介さん」
アンタが女だったら……こんな口先だけの下賤な小悪党に手込めにされて犯されて、挙句にロクでなしの種を孕んだとあっては……。
活き地獄に真っ逆様、だ。
それでも、この御人は。
この御人は柔らかな笑みを、札撒き御行風情に、向けてくれるのだろうか。
むしろ、二人の繋がりを示す、何がしかの“証”を、百介は望んでいるのだろう。
何も残せぬ。何もしてやれぬ。
想いも、証も、誠すら、この優しい御人には、何一つ遺していってはやれぬ下賤な身。
それでも、それだけでも良いから、と。
又市の全てを包むように赦してくれる、この御人は。
「アンタは……奴のモノだ」
抱き寄せて、耳に言葉を落とし込む。
弥勒三千の“小股潜り”が、嘘つきな口で誠を告げる。
七七重八重
花は咲けども山吹の
実の一つだに無きぞ哀しき
華を咲かせても…誠が無ぇんじゃアなぁ……。
済まねぇな、百介さん。
こんな悪党に惚れられちまった……。
又市が抱き締める最愛の人は、口許に微かな笑みさえ湛えて。
夢すら見ない、眠りの淵に沈んでいるだけ。
ななえやえ
はなはさけども………
2007.11.17 -END-