待伏せ(やおい)

□《狼さんと狐さん》
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 狐の又市は、草原で寝そべりながら、愛しい恋人が来るのを待っています。
「又市さーん」
 草原の向こうから跳ね上がりながら駆けて来るのは、白い狼の百介です。
「お待たせ致しましたか?」
 弾む息を整えながら、白く美しい狼はニッコリ笑って、狐の又市に擦り寄りました。
「ああ、百介さん、また人間の匂いがしやすよ」
 又市が尖った鼻先で狼にしてはフワフワ胸を小さく突くと、百介は慌てて自分の体の匂いを確認しました。
「えっ、そうですか?水浴びをして来たのですが」
 百介は白い毛並みが珍しいと、小さい頃に人間に連れて行かれて、今まで人と暮らしてきましたが、大きくなったので山に戻して貰えるようになったのです。
 ですが、百介はまだ狩りも出来ないので、一日の半分は人間と暮らしているようなもの。
 又市達のような野生の獣にはない、人間臭さが毛皮に付いているのです。
 又市は、それが不満で、会えば真っ先に百介の毛皮を舐めて、人間の匂いを消そうとします。
「くすぐったいですよ、又市さん」
 百介はクスクス笑いながら、又市に舐めて貰います。
 いつものことなのですが、又市は念入りに百介の体を舐めるのです。
「動かないでくだせぇよ、今、奴がキレイに舐めて…」
「あ、あ、そんな所は
「ほーら、こっちも

 …なんかナレーションも馬鹿らしくなってきましたが

 さて、百介には兄がおりました。
 山の狼達のリーダーである、大きな黒い狼の軍八郎です。
 今日も血相変えて、不埒な狐を成敗せんと駆け付けます。
「おのれっ、このエロ狐っ、我が愛する弟から離れろっ」
「あ、兄上」
「ケッ、野暮しなさんな、軍八郎の旦那」
「喧しいっ。大体、狐の分際で百介に馴々し過ぎるっ」
 軍八郎は、早く百介を山に連れ帰りたいのですが、又市がいつも邪魔をしてくるので、目の敵にしているのです。
 ましてや、山に帰ったら兄弟二人であ〜んなことやこ〜んなことをしてやろう、と桃色妄想果てしない軍八郎なのですが、肝心の百介は又市に騙されて、狼なのに狐の嫁になると言っています。
「百介さんと夫婦の誓いを立てたんだ、邪魔しないでくンな」
 鼻先で嗤う又市に、ついに軍八郎の堪忍袋が音を立ててブッチギレました。
「きーつーねーっ噛み裂いてくれるっ」
「やなこった」
 二匹は素晴らしい速さで追いつ追われつ、たちまち駆け去って行ってしまいました。
 後に残されたのは、良く事情を理解してない百介だけです。
「仲が良いなぁ、又市さんと兄上
 完全に二匹の仲を誤解している百介です。
 一匹淋しく草原に座りこんでいる、百介。
 そこに、山猫のおぎんがヒョッコリ姿を現わしました。
「おやまぁ、百介さん、こんな所でどぅしたんだぇ?」
「あ、おぎんさん、こんにちは」
 つやつや光るしなやかな長い尾を振って、おぎんはニヤリと流し目で笑います。
「一人で暇なら、どうだぇ、百介さん。あっちに綺麗な花畑があるんだけど、一緒に行かないかぇ」
「花畑、ですか?うわあ、どんな所なんですか」
 百介は嬉しそうに尻尾を振って、おぎんの後をトコトコ付いて行きます。
 山猫は『してやったり』とガッツポーズ決めてましたが、百介には判っていません。



 かくして、この日の百介とのデートは、漁夫の利せしめた山猫おぎんの一人勝ちとなりましたとさ。



  チャンチャン



2009.11.24 -END-
2009.12.01 再




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