狩猟(巷説U)
□《添い寝》
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『なんだ?』
探してくれているのか?求めてくれているのか?
夢の中でまで、この下賤な札撒き御行を。
又市は、茶碗の中に残った酒を残らず飲み干すと徳利を片付け、寝入る百介を起こさぬように座っていた蒲団の位置を移動させた。
それから、するりと百介の掛蒲団を捲り反対側から潜り込む。
冷えた空気に晒され、むずかるように寝返りを打った百介は、隣りに入って来た又市の温もりに、自ら擦り寄った。
明日の朝、百介が目を覚ました時が楽しみだ。
さて、どうやって騙くらかしてやろうか。
この状況では、百介の方が又市の蒲団に潜り込んだ形になる。
顔色を赤にも青にも変えて、大慌ての上に恐縮しきる百介の顔が、簡単に予想出来る。
又市は緩んだ表情のまま、百介の体を引き寄せた。
又市の胸元に身を丸めるようにして、百介は安堵の笑みを再び浮かべて安らいだ寝息を立てている。
そっと腕を伸ばした又市は、百介の頭を抱き寄せ総髪の匂いを胸に吸い込む。
久しぶりに良く眠れそうだ、と又市は傍らの温もりに安らぎながら、柔らかな夜の闇の中で目を閉じた。
2009.01.26 -END-