狩猟(巷説)

□現代版《温泉に行こうっ》2
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 そんなに大きな温泉宿ではないから、客が八組も入れば満室である。
 最初の予約では、慰安旅行を兼ねての家族旅行だ、との話だったのだが、宿を全室貸切りとなると只事ではなくなる。
 しかも、訪れたお客様方といったら。
「大学准教授の御兄様の御職業が検事で。その御友達の刑事さん。それは良いんだけど……けどねぇ」
 御兄弟と、その兄の友人は判る。
 弟の友人が探偵で、その教え子という関係までは、『妾だって理解るよ』と言う女将に、二人が大きく肯首いた。
「こちらの小料理屋経営の夫婦。この御二方は、御兄弟の親戚かしら」
 家族旅行って聞いたからね、と女将と若女将が頷き合うが。
「じゃあ、このホストクラブのオーナー、ってのはどういう繋がりなんだろう?」
 そもそも、大学の先生と探偵が友人っつーのも解せない話だ、と番頭が首を捻る。
「御兄弟の行き着けの店…だとか?」
「飲食業の小料理屋は兎も角、接待業とはいえ“ホストクラブ”だよ」
 キャバレーなら、まぁ、刑事さん達も行くだろうが、ホストクラブったら違うだろう?
 うぅ〜む…。
 三人は揃って頭を抱えて唸るばかり。



 しかし、この温泉宿の者達は、未だ知らない。
 明日からの宿泊予定を急遽入れて来た『大新聞社の社主』やら、女子大生の父親である『大物相場師』、更には『出版業界最大手』会社の社員等が、揃ってこの兄弟の……というか、准教授の個人的な知り合いなのだ、ということを。
 そして、彼等は大挙殺到して、この山奥の静かな温泉宿にやって来るのだ。
 百介さん会いたさに。




 2007.11.13 -END-
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