狩猟(巷説)

□現代版巷説《擬》
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「――で?土蔵を開けたら仏さんが転がってた、と?」
「はい。土蔵の鍵は閉められてましたよ」
 事情聴取というか取り調べで、刑事三人から事件のあらましを根掘り葉掘りネチネチと問い質されても、百介には同じ事を繰り返し答えるしかない。
 旧家の蔵開けに立ち会った際に、真新しい屍体が土蔵の中に転がっていたなんて。
『確かに、出来過ぎた話ですよね』
 自分でもそう思うのだから、当然本職の刑事が胡散臭く感じても仕方ないだろう。
 しかも被害者は、蔵開けの前夜まで招待客である筈の百介に対し、『帰れっ』と喚き立てていた旧家の親戚の男で。
「どうもなぁ、話が上手過ぎるんだよ。アンタ、大学の先生だってね」
「はい」
 山岡百介、H大学民俗学部准教授。若干、二十歳台。
 如何にも育ちの良い穏やかな顔付きながら、本人の口調や仕草には、何処か隠居めいた風体が漂って居て。
 胡散臭ぇ、と刑事達の目が光る。
「じゃあ、アンタの連れの。あっちの兄さんは?」
 顎をしゃくられ、それが別室で事情聴取を受けている又市の事を示しているのに気付き、百介は『ああ』と浮かべた笑みを深くした。
「恋人です」
「………………あ?」
 たっぷりの沈黙の後、刑事達が揃って気抜けした声を上げた。
「ですから、あの人とは正式な婚姻はしておりませんが、生涯の伴侶なんです」
 百介が嬉しそうに、恥じらいを込めて二人の関係を力説すれば。
「なんだ…ホモかよ…」
 漸く二人の関係を飲み込めたらしい刑事達は、揃って渋い表情に変わる。
 一人の刑事なぞ、失礼にも百介から微妙に距離を置いたりして。
「あ〜ゴホンッ。取り敢えず、アンタの身許照会をさせているから」
「それって、大学へですか?」
「ああ。後はアンタの実家に――」
「ええっ?まさか、連絡しちゃったり、とか?」
「したよ、当然だろうが」
 それが、どうした?
 頭を抱えた百介に、刑事がそう言う間も無く―――。
「百介ぇ〜っ!」
 警察の威信を揺がす存在が、高級車で特攻かける勢いで乗り付け、大声を上げつつ刑事一課に走り込んで来た。
「心配したぞ、百介。また事件に巻き込まれたのかっ?」
「兄上…」
 兄という人物が入って来た時点で刑事課長は直立不動。回りの刑事も顔を青褪めさせた訳は。
「けっけっ、検事殿ォ?」
「山岡って…山岡検事の弟様でしたかっ?」
 百介を取り調べていた刑事は吹っ飛んだ。
「あ〜、説明が遅れましたね」
 直立不動の刑事達に、ハハハと乾いた笑いを漏らす百介。
 そんな弟を庇うように抱き締めて、一回りは歳の離れた兄の軍八郎は、別室にいるという百介の連れの名を聞いて、たちまち不機嫌になった。
「また、あのヤクザな探偵と一緒なのかっ?百介、あれ程別れろと言っているだろうが」
 アイツと居るとロクな事にならない、と一人息巻く軍八郎に、百介は内心溜息の嵐。
「ヤクザ上がりで失礼しやしたねぇ。山岡様も、御変わりなく」

「あ、又市さん」
 と軍八郎に庇われた格好のまま、百介は背後から音もなく現れた又市に、嬉しそうに声を掛けるが。
 大事な“箱入り愛弟”に手を出した憎い敵の出現に、軍八郎は早くも臨戦体制。
「生憎とピンピンしとるわ、残念だったな又市」
「本当に残念なこって」
 と、口には出さずに目で訴える又市だが、睨み付ける軍八郎も負けてはいない。
 どちらも引く事をしないから、百介を挟んでバシバシと火花散らす勢いである。
「貴様がいるから、百介は変な事件に巻き込まれるんだっ」
 怒鳴り立てる軍八郎に対して、『へっ』と鼻先で笑う又市は。
「百介さん、事情聴取は終わりやしたかぃ?ああ、なら温泉宿に戻りやしょうか」
「はい」
 と、にこやかに返事をした百介は兎も角、軍八郎は目を剥いた。
「ま、待てぃ、又市!百介と二人で、温泉宿だとぉ?」
「へい、お互い邪魔の入らぬ離れの露天風呂で、シッポリと裸の楽しみを、ってね」
 野暮言ぃなさンなよぅ、と若気る又市に対し、百介を両腕に抱き込んだ軍八郎は額に青筋立てて怒鳴った。
「積もる因縁もある!又市、今日こそ可愛い弟から手を引いて貰うぞっ」
「そいつァ御免被りまさぁ」
「まーたーいーちーっ!」




-ドッカニツヅク-

 

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