狩猟(巷説)
□闇宗主《逆転異議有り》
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邪悪を突き抜け、聖魔をも混在させた、艶やかな笑みに、又市は骨までもが震える気がした。
百介は、こてん、と首を傾げて『迷惑でしたか?』と、幾分悲しそうに言葉を付け足した。
又市は、ごくり、と喉を鳴らし生唾を飲み込んだ。
「百介、さん……」
「はい」
はい、何でしょうか?御行殿。
「出来たら、奴の名ァ呼んでくれませんかぇ?」
又市の言葉に、晴れやかに声を立てて笑った百介は、『遊びましょうよ』と、なんとも楽しそうに告げた。
「そうそう。もっと愉しくするのなら」
手招きする百介に、恐る恐る近寄った又市の馘に、両の腕を絡み回して。
百介は、又市の唇を己のそれで重ね合わせた。
驚きに見開かれた又市の瞳から、ふっと焦点がぼやけて輝きが薄れていくのを、百介は間近で見詰め。
「今、見知った“私”のことは忘れなさい。私は、江戸は京橋の、蝋燭問屋・生駒屋の若隠居だと、そう覚えておきなさい」
唇を離してから、囁くように命じる。
それに対して、コクリと素直に頷いた又市を、満足気に見詰めて。
百介は、血で濡らしたかのように赤い唇を、チロリと舌先で嘗めあげた。
「貴方の“仕掛け”……楽しみにしていますよ」
ねぇ、又市さん?
≡≡≡≡≡≡≡≡≡
もっと。
私と、遊びましょう?戯れましょう?
そして……。
もっと“私”達を、巷に解き放って行きましょう。
ねぇ……又市さん?
私が、怖い、ですか?
2007.10.19 -END-